2024.05.08
深める「結婚のときに『名前変えてくれない?』って言われたこと、恨んでいるよ」
佐藤さんは西さんにそう話したといいます。
西さんは、「そのときに初めてやっと何か恨まれるようなことをしてしまったんだと気づいたんです」と言います。
事実婚を選択し、今度は2人で同じ方向を向き始めました。
「妻の名前を取り戻すことにしよう」
佐藤さんが名字が変わることで感じてきた、「自分じゃなくなる」という根源に関わる不安。
そのほかにも、さまざまな改姓による「不利益」があります。
例えば、行政上の手続き。
運転免許証、健康保険証、銀行口座、マイナンバーカード、印鑑登録…
改姓することで、新たに登録し直さなければならないものはたくさんあります。
もちろん、それに伴って、キャッシュカード、クレジットカード、水道やガスなどライフラインや給与振込口座の登録氏名変更などなど…
だけど、結婚のとき、男性が女性の姓に変えた夫婦は、全体のわずか5.3%(内閣府調査)。
そんな「不利益」もこれまで長い間、ほとんど女性だけの問題として扱われてきました。
企業の労務管理や女性のキャリア形成などを研究する、北海道大学教育学部の駒川智子教授は「名前というのは、その人のアイデンティティーと不可分な大事なもの」だと話します。
さらに、働くうえでも名前は大きな意味を持ちます。
「その人が培ったもの、蓄積し、経験してきたものを示すのに名前は非常に重要。名前が変わることで同一人物と認識してもらえずに、培ったものが分断されてしまう恐れがある。大きな痛手になる人が多い」と指摘します。
つまり、「夫婦同姓」が女性の「働きやすさ」や「キャリア形成」の妨げとなってきた現実があるのです。
キャリアが分断されないように、名前が変わったときには相手に伝え、周知する努力が必要になる。
でも、選択的夫婦別姓制度があれば「なくてもいい作業だったはず」だと駒川教授はいいます。
そして名前が変わったことを伝えれば、今度は「どうして変わったの?」と聞かれる。
これについても「本来なら、取引先など、企業のビジネスの中では発生しない自分のプライバシー事項が表に出ていくのはしんどい」と話します。
「さらに伝わりきらないというときは、やはり同一人物としてみなされない危険がある。もしかして自分の今までしてきたことというのは、ちゃんと蓄積になってないのではないかという不安を感じるでしょう」