2024.03.29
育む子どもだけでなく大人も楽しめる絵本を、絵本セラピスト協会認定「大人に絵本ひろめ隊員」、そして2児の母でもある、HBCアナウンサーの堰八紗也佳(せきはち・さやか)がご紹介します。
北海道ゆかりの作家、有島武郎(ありしま・たけお)の没後100年を記念して、童話『一房の葡萄』が絵本になりました。
私はいつも“大人にこそ絵本を”とおすすめしていますが、この絵本『ひとふさのぶどう』こそ、大人の心に響く1冊です!
原作を知らない人も、大丈夫。
今回は、最後に私が朗読した音源ものせてみました。ぜひお聴きください!
北海道ニセコ町に、有島記念館があります。
有島武郎は、1878年東京生まれ。
1917年、ニセコを舞台とした小説『カインの末裔』が出世作となり、『生れ出づる悩み』『或る女』などで大正時代の人気作家となりました。
現在の北海道大学である札幌農学校で学び、札幌の大学で教職に就いたことから、北海道に深いゆかりがあります。
1922年には、ニセコに所有した農場を小作人たちに無償開放していて、これは有島が大切にしていた 「相互扶助(互いに助け合うこと)」 の精神に基づいています。
しかしその翌年、軽井沢で自ら命をたち、45年の短い生涯を閉じました。
有島武郎は生涯で6編の創作童話を残しています。
『一房の葡萄』は、1920年、児童文学雑誌『赤い鳥』に発表された作品でした。
「小説以外に童話も書いていたのは意外!」と思われるかもしれませんが、有島自身にも3人の子どもがいて、自分の子どもを喜ばせたいという想いがあったようです。
有島武郎がこの世を去ってから100年を迎えた2023年。
「もっと有島武郎のことを知ってほしい。有島の作品に触れてほしい。」
そんな想いから有島記念館は、『一房の葡萄』を誰もが親しみやすい“絵本”にしようと考えました。
有島記念館の主任学芸員である伊藤大介さんが声をかけたのは、 北海道を舞台にした絵本『おばけのマール』 の作者として知られる、 なかいれいさん と けーたろうさん 。
原作の童話をそのまま絵本にするのではなく、有島が大切にしていた 「相互扶助」 の考えなど、 有島の思想を“エッセンス”として取り込む ことで、絵本を完成させました。
絵本らしい、短くわかりやすい言葉遣いと展開。
でも、最後は大人でもぐっと考えさせられる…
出来上がった絵本を見て、主任学芸員の伊藤さんは思わず涙がこぼれたそうです。
「子どものときと、20代30代で読むときでは、それぞれ印象が変わってくると思うので、末永く引き継いでいってほしい。」
「たとえ絵本に汚れや破れが出てきても、それを見ただけで当時の思い出が蘇ってくることがあるはず。デジタルも便利だけれど、紙の本をずっと大切にしていきたい」
伊藤さんはそう話していました。
私自身は、絵本『ひとふさのぶどう』と出会ったことで、初めて原作『一房の葡萄』を読みました。
怒りの感情が湧いてきたら、怒るのではなく「許す」。
これはとても難しいことです。
しかし、“許しあう心”や“分かちあう心”が、自分と相手に深い気づきを与え、より成長させてくれるものだ、というメッセージを受け取りました。
有島の思想は、現代の私たちにも全く違和感なく届くのです。
私と同じように、絵本をきっかけに原作に興味を持ってくれる人がいたら嬉しいです。
中西出版からは文庫サイズの『一房の葡萄』総ルビ版も発売されています。
こちらは “現代仮名づかい” に改められ、漢字すべてに“ふりがな”がついているので、かなり読みやすくなっています。
『一房の葡萄』をはじめ、5編の童話作品が収録されているので、有島の“お話の世界”をたっぷりとお楽しみください!
今回は青空文庫をもとに、原作の『一房の葡萄』を朗読しました。
耳でも、ぜひ有島の世界を堪能してください。
【参考】
・ほっかいどうの出版社 中西出版株式会社
〒048-1531
北海道虻田郡ニセコ町字有島57番地
電話:0136-44-3245
開館時間:9:00~17:00(入館は16:30まで)
休館日:・毎週月曜日(月曜日が休日の場合は翌日休館)、年末年始
入館料
一般500円(団体10名以上:400円) 高校生:100円
※中学生以下および65歳以上のニセコ町民は無料
年間パスポート(1年間有効):大人800円 高校生200円
・青空文庫 有島武郎 一房の葡萄
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「連載コラム・今月の絵本通信」
文|HBCアナウンサー 堰八紗也佳
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編集:Sitakke編集部あい
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