100年後を表現したセクションに続くのは「今ある危機」。その入り口にあるのがこちら《Invisible Mountain》というタイトルの展示です。
細川さん:天井から吊り下げられているのは、実際にアルプスの氷河の融解を遅らせるために使われたシートの一部です。
映像でも紹介されていますが、このイタリア北部のエリアでは2008年からビニール製の布で氷河を覆う活動が展開されています。今回の展示ではこの保護布の一部が氷山の稜線を描くように天井から吊り下げられ、消えゆく山の存在を間接的に伝えます。成果も出ている一方、皮肉なのが、この保護布はプラスチック製であり、劣化するため、2年に一度交換しなければならないこと。氷河の融解を防ごうとする活動が、自然環境に負担をかける可能性もある。こうした矛盾と問いを視覚化したプロジェクトです。
堰八アナ:流氷が薄くなってきているのと同じ問題ですよね。
細川さん:そうですね。この保護布の下には氷河が存在していた。でも今はもうないかもしれないと想像し、そしてその水が、地表に染み込み、川に流れ、海に繋がり、そして海面上昇を引き起こすという地球全体の視野を広げてほしいです。気候変動への課題意識を改めて感じるのではないでしょうか。
そしてこのセクションの終盤で見られるのが《Red》です。
堰八アナ:あ、赤い花だ!萎んだり開いたりしていますね。
細川さん:これは序盤にも登場したチェ・ウラムさんの作品で、彼の提案で展示することになりました。ステージに立つ経験なんてなかなかできないから、皆さんにぜひステージに立ってもらいたい。そして、来場者のみなさんが鑑賞者から演者として未来を考えてほしいという企画側からのメッセージが相まって実現しました。
堰八アナ:うわー、劇団四季のステージに立つのが憧れだったんですよ!
細川さん:花弁には、コロナ禍を支えていた医療従事者の防護服に使用されていたタイベックスという素材が使われているそうです。当時の報道を見ていて、こんなに薄い布1枚で生と死が対峙している状況にすごくインスピレーションを受け、この素材を使って普遍的な生と死の循環を表現しようと考えられたそうです。
花弁の色を赤からは、みなさんもパワーを感じると思います。まるで、これから一緒に未来をつくっていきましょうよと、背中を押してくれるような存在のようにも感じます。他人事だと思っていた未来に対して、これからは自分たちが主役になって、どう一緒に作っていくか考えてほしい、改めてステージに上がっている主役であると感じてほしいということから、あえて終盤にステージに立ってもらうという流れを作りました。
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未来劇場で体験する「アートの200年の旅」。最後に観客席で待っているのは、未来を創造する参加型プログラム「未来ラボ」。
ここではAIを活用し「未来の誰か」と文通ができる《WRITING THE FUTURE》や、液晶タブレットやデジタルペンを使い、参加者が思いのままに描き、思いをつなげていく《Last Ink》など、未来を書き、コーディングし、描く“未来のための道具”を体験することができます。
堰八アナは、《Last Ink》の「連想ドローイング」に挑戦!ほかの参加者が描いたイラストから連想するイメージを描き、次の参加者へと思いをつないでいきます。
通常、観客席は舞台を見つめる場所ですが、未来劇場での旅を終えた来場者たちは、このラボで未来への行動を起こす「演者(アクター)」になることができるのです!
「芸術には疎いんです」と話していた堰八アナ。実際に「札幌国際芸術祭2024」の会場に足を運んでみて、いかがでしたか?
堰八アナ:芸術祭って絵画中心の展覧会をイメージしていたのですが、プログラミングされて動くものまであって、こんなにいろんなアートがあるんだなと驚きました。
全部に没入感があって、周りに人がいても自分1人になっているような吸い込まれる感覚でした。アート鑑賞はちょっとハードルが高いかもと二の足を踏んでしまう人もいると思うんですけど、私のように普段、芸術に触れる機会の少ない人も楽しめると思います。ぜひ気軽にふらっと来てみてほしいですね!
多種多様なアートを眺めているだけでも十二分に楽しめるイベントです。
さらに「LAST SNOW」というテーマを心に刻み、「テクノロジーの発展の一方で、地球環境問題などさまざまな課題が挙げられるけれど未来はどうなっているんだろう」と想像しながら、今できることを考えてみると、より深く味わえるはずです!
<札幌国際芸術祭2024 開催概要>
■テーマ・サブテーマ
LAST SNOW はじまりの雪
■開催期間
1月20日(土)〜2月25日(日)
※札幌芸術の森美術館は2023年12月16日(土)〜2024年3月3日(日)
※さっぽろ雪まつり大通2丁目会場は2月4日(日)〜2月11日(日・祝)
■メイン会場
札幌文化芸術交流センター SCARTS★、未来劇場[東1丁目劇場施設]★、北海道立近代美術館、さっぽろ雪まつり大通2丁目会場、モエレ沼公園、札幌芸術の森美術館
(★印の2会場を今回は紹介しました)
※2024年1月の情報に基づきます。
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文: にの瀬
編集:ナベ子(Sitakke編集部)
取材日:2024年1月
Sponsored by 札幌国際芸術祭