2024.02.05

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さっぽろ雪まつりにも登場!悲しき王様が描いた夢の世界「ノイシュヴァンシュタイン城」の魅力とは【前編】

夢とファンタジーの世界の象徴としてのお城

白亜の城は、夢とファンタジーの世界の象徴なのです。ノイシュヴァンシュタイン城の建設者バイエルン国王ルートヴィヒ2世(1845年‐1886年)もまた、自身の夢の世界を具現化するために建設したので、ディズニーランドの城とノイシュヴァンシュタイン城には共通する思想があります。

しかし大きな違いもあります。ウォルト・ディズニーはアニメ映画『白雪姫』や『眠れる森の美女』の世界を多くのファンが実感できるようにディズニーランドの城を建設しましたが、ルートヴィヒ2世は、劇作家・ワーグナーのオペラの世界を、自分だけが実感できるようにノイシュヴァンシュタイン城を建設したのです。

ノイシュヴァンシュタイン城の建設者バイエルン国王ルートヴィヒ2世(1845年‐1886年)

とはいえ王の死後、城は観光客に一般公開されましたから、結果として大きな違いはないのかもしれません。夢のような物語の世界を実感できる城を作りたいという発想は、19世紀と20世紀の時代の違いはあれど、多くの人が共感できる考え方であると言えるでしょう。

「騎士の物語の世界に住みたい」バイエルン国王が実感したかったもの

ノイシュヴァンシュタイン城外観(4月)© Satoru Ohata

ルートヴィヒ2世が実感したかったワーグナーのオペラの世界とはどのようなものだったのでしょうか。築城開始の前年の1868年5月に、ルートヴィヒ2世はワーグナー宛ての手紙に次のように書いています。

「私はペラト渓谷のホーエンシュヴァンガウ城址を、古きドイツの騎士城に忠実な様式で新しく建設させるつもりです。そこにいつか(3年後に)住むことを楽しみにしています。

・・・重要なのは、最も美しく、神聖で近寄りがたい、神のごとき友の栄誉の神殿だということです。そこには、世界の真の祝福と幸福だけがあることでしょう。窓から城が見える歌人の間は『タンホイザー』を、城の中庭や回廊、礼拝堂への道は『ローエングリン』を連想させるでしょう」。
(※『タンホイザー』『ローエングリン』=ワーグナーのオペラのこと)

この手紙で予告したとおり、城内には、ワーグナーのオペラの白鳥の騎士ローエングリンと騎士歌人タンホイザーとヴァルトブルクの歌合戦の絵画が何枚も飾られています。つまり中世以来語り継がれてきた騎士の物語の世界に住みたかったというわけです。

居間(白鳥の騎士の壁画)© DZT, BSV/ Ernst Wrba

さらに詳しく、ルートヴィヒ2世の心象風景を表現していると考えられる城内絵画の内容を見てみましょう。まずは、城のコンセプトに最も重要な白鳥の騎士から。居間に飾られている絵画は、白鳥の騎士ローエングリンが、公位継承の危機にあった公女エルザを救うために白鳥の舟に乗ってブラバントに颯爽と到着したシーンです。高貴な姫のために危険を顧みず、強大な敵に立ち向かおうとする雄々しき若者の姿が、若きルートヴィヒ2世の理想像なのです。

つまりノイシュヴァンシュタイン城とは白鳥の騎士の城であり、救国の英雄、若き女性を救う勇者の世界なのです。そういうと、ルートヴィヒ2世に限らず、世界中の青少年が住みたくなるような物語の世界だということが分かりますよね?現代でもそのような英雄物語はアニメや映画の世界に満ち溢れており、古今東西普遍の願望なのです。

執務室(タンホイザーの壁画)© DZT, BSV/ Ernst Wrba

次は執務室に掲げられているタンホイザーの絵画です。騎士歌人タンホイザーは、ヴァルトブルク城の姫エリザベートに恋するも、貧しい騎士の身では結婚はかなわぬと絶望し、女神ヴィーナスの洞窟に迷い込み、そこで美しい女神たちと愛欲の日々に溺れるシーンが描かれています。ある意味で若い男性の願望が表現されていると言えますが、この逃避的で退廃的なシーンは白鳥の騎士の勇敢なシーンとは明らかに違う方向です。恋する女性のために勇敢に戦いたいと思いながらも、現実の厳しさに怖気づき、安易な誘惑の世界に溺れてしまう男性・・・。ストレートな理想像とは違いますが、どこか共感できる屈折した理想世界でしょうか。

現実の政治外交の世界から少しずつ遠ざかり、山中の城に退避していったルートヴィヒ2世の屈折した願望が現れていると考えられなくもありません。城内には女神ヴィーナスの洞窟を模した人工洞窟も設置されており、それが重要なコンセプトであることは間違いありません。英雄のごとく勇敢でありたい、けれども現実は厳しく、逃避してしまいたい・・・そんなアンビバレントな思いが込められた城がノイシュヴァンシュタイン城なのです。

歌人の間(パルジファルの壁画)© Bayerische Schlösserverwaltung, Rainer Herrmann, München

最後に注目したいのが、歌人の間に掲げられているオペラ『パルジファル』(ローエングリンの父親)の一場面を描いた絵画です。聖杯城のアンフォルタス王は槍で受けた傷が癒えず苦しみ続けており、そこにパルジファルが現れて傷を癒す一縷の希望が芽生えるシーンです。ルートヴィヒ2世が共感を覚えたのは間違いなく苦悩する王の方でしょう。自分自身が苦悩する王様でしたから。そして自身が受けた傷を癒すために建てた聖杯の城こそが、ノイシュヴァンシュタイン城だったのです。

3つの絵画の内容は、ルートヴィヒ2世の若き日の理想像、そこからの逃避癖、そして苦悩し続ける現状を表しており、それはとりもなおさずノイシュヴァンシュタイン城に込められた願望、つまり理想の騎士の城、逃避の楽園、苦悩から救われる家を表しています。

Sitakke編集部

Sitakke編集部やパートナークリエイターによる独自記事をお届け。日常生活のお役立ち情報から、ホッと一息つきたいときのコラム記事など、北海道の女性の暮らしにそっと寄り添う情報をお届けできたらと思っています。

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