1960年代に入る少し前、自家用車普及化の波が急激に拡がる中、安価で小回りのきく小型オート三輪が主に個人の商いを支える足としてニーズが急増した。ダイハツのミゼット、三鷹富士工業のムサシ、三井精機工業のハンビーなど、各メーカーが争うように代表車をリリースする中、東洋工業(現マツダ)が満を持して市場に送り出したのが、マツダK360(以降 K360)だ。いま見ても色あせない愛らしいデザインは、実用車としてだけでなくルックスの面でも秀でており、現在でもニッチな愛好家が全国各地にいる。
函館市内在住の会社員・内藤重彰さんの自宅ガレージにも、このK360が収められている。しかしここのK360、ただの中古車ではない。内藤さんはこのK360を、1960年代に亡き父・重春が谷地頭町で営んでいた家業の牛乳屋の配達車として使っていた状態に完全復元。そのため息が出そうなディテールへのこだわりはSNSやメディアで話題となり、NHKワールドの海外ニュースでも取り上げられた。
内藤さんがK360の購入と復元を思いついたのは2022年のこと。ある日、なにげなく幼少時に父の配達車の前に立ち兄弟3人で撮影した1枚の写真(次ページ掲載)を眺めていたとき、ふと「これを復元できないか」と思い立った。
その後、中古車情報サイトやネットオークションでK360が売りに出ていないか探す日々が始まり、その年の12月に静岡の販売店から出品されているのを発見し、見事に落札した。「購入資金の原資は退職金をアテにして(笑)。状態はそこそこ良かったんですが、あくまで目的は父の配達車の復元。届いてからが大変でした」
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