この短編は大きな反響を呼び、周囲から「長編化しないのか」という言葉をたくさんもらったそう。
その声をきっかけに「もし再編するとしたら?」とふと考えた時に、監督の想像は予想以上に膨らんだと言います。

「せっかく70歳と20歳、50年の歳の差があるゲイカップルというのを主人公にして撮るのであれば、自分自身はもちろん、ゲイバーで出会う先輩方や、おそらく20代の子も感じているであろう世代間のギャップというか、そんな今自分が直面しているリアルを何かそこに反映できるんじゃないかなって気がしたんですよね。現代日本の同性愛者像について、何か総合的なものを描けるんじゃないかって。それで、これは俄然面白くなってきたぞと思って、例えば『老ゲイの持ち寄り会のシーンを入れたい」とか、『既婚のゲイの存在って、あまり映画に描かれないから登場させたいな」とか。パートナーシップ制度についてのシーンも、これだけ話題になってるのに滅多にスクリーンに登場することはないので、これは盛り込んでいこうって思ったりしたんです」

© 2022 老ナルキソス製作委員会

短編にはなかった様々なシーンが盛り込まれた今回の長編版。LGBTQにとってシンボリックな存在であるレインボーカラーも、日常の一コマとして登場します。

ゲイやレズビアンをテーマにした映像作品は増えてきていますが、あたし個人としても感じるのは、では登場する人物はというと、「BL」「百合」といった言葉で想像できるような「見た目の麗しさ」、もっと言えば「若さ」を極端に保持した、ちょっとばかし創作風味の強いフィクショナルなキャラクターが多数。しかも、実際の当事者の「リアルな」生活のあり方であったり、性的マイノリティが生きていて感じ、考え、あるいは悩むような事柄であったりは、サラッと捨象されていることがままあるように思います。

老絵本作家・山崎(© 2022 老ナルキソス製作委員会)

東海林監督は「老い」をはじめとした、LGBTQのリアルにも目を向けるべきだと語ってくれました。

「どうして若い(同性愛者同士の)表象ばかりが取り上げられるかっって、そこに性的な価値があったりとか、商品的な価値がどうしても生まれてしまうからだと思うんですよ。そればっかりがすごい持ち上げられて、そこにのみ着目されている気がする。だからこそ、そうじゃないところを見せたいというか。そういう人(LGBTQの当事者たち)が年老いて、どう生活していくのか、どう自分と向き合っていくのかっていうことの方が、結局当事者にとっては大事になってくるんですよね」

ゲイやレズビアン、バイセクシャルやトランスジェンダーも、当たり前のことですがひとりの人間です。
人間として生まれ、成長し、そして当然のことながら老いていきます。
また、老いたとしても当事者は当事者です。年齢に関係なく、ひとりの人間として恋をし、病いに悩み、なんなら総合的な意味で「生活」をしています。

その「生活」をどう描き出すか、そこにたくさんの光を当てている、今回の長編化。
短編版からは想像もしなかった広がりを感じた一視聴者としては、この監督のこだわりには、一種納得せざるをえないところがあったのでした。

Sitakke編集部

Sitakke編集部やパートナークリエイターによる独自記事をお届け。日常生活のお役立ち情報から、ホッと一息つきたいときのコラム記事など、北海道の女性の暮らしにそっと寄り添う情報をお届けできたらと思っています。

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