函館本線・比羅夫駅は“泊まれる駅”として人気の宿です。事務室を改装したエントランスや客室の窓から、プラットホームに発着する列車を眺めることができます。比羅夫駅のある小樽〜長万部区間は北海道新幹線と並行しているため、現役の駅として利用される時間もあとわずかです。鉄道ファンをワクワクさせる「駅の宿ひらふ」に宿泊しました。
「ヒラフ」と聞いて、国際的リゾート「ニセコ東急 グラン・ヒラフ」を思い浮かべる人は少なくないでしょう。「駅の宿ひらふ」として利用されている比羅夫駅は、リゾートから約8kmにもかかわらず、昔ながらの静けさが残されています。
比羅夫駅は、1904(明治37)年10月15日に開業しました。「比羅夫」という地名は、658年(飛鳥時代)に阿倍比羅夫が蝦夷征伐を行い、後方羊蹄の地に政庁を置いたとする伝説に由来するといわれています。かつては駅員を配置する有人駅でしたが、1982(昭和57)年3月1日に、荷物取扱い廃止と同時に無人化されました。
「駅の宿ひらふ」の開業は、それから5年後のこと。先代オーナーがJR北海道から駅舎を借り受けて民宿を始めました。現在のオーナーの南谷吉俊さん(京都出身)は、最初は宿泊客の一人でした。務めていた会社を辞めて羊蹄山に登山するために宿泊したのが運命の分かれ道。前オーナーと意気投合し、1995(平成7)年に宿を譲り受けました。
「駅の宿ひらふ」は、現役の駅に泊まれる全国でも珍しい宿です。かつての事務室はエントランス、2階は客室に改装されています。比羅夫駅の1日の乗降客は1〜2人程度。“全員が宿泊客”ということも少なくありません。
エントランスには、南谷さんお手製のテーブルや椅子が鎮座しています。窓から列車の発着が見え、“駅に泊まる”という気分を高めてくれます。壁には行先表示板や愛称板、駅員の制帽などが飾られているほか、鉄道に関する書籍も多数用意されています。
「駅の宿ひらふ」が舞台になった小説『駅に泊まろう!』(著者・豊田巧)も全巻揃っていました。東京で居酒屋の店長だった若い女性が主人公で、祖父が経営していた「コテージひらふ」を引き継ぐことから物語が始まります。エントランスで読んでいると、小説のなかに入り込んだような気分になりました。
セルフサービスで、お茶やコーヒー、ココアが用意され、ビールやワインなどのアルコール類も販売されています。周辺にはコンビニはおろか、自動販売機もありません。あらかじめ買い物を済ませてからチェックインするとよいでしょう。
2階は客室になっていて、山小屋風ベッドルーム『深緑(ヴェール)』(定員2名)と洋室『流星(ステラ)』(定員2名)の2つがあります。そのほか、駅舎に隣接するログコテージ『すーる』(テレビ・トイレ付、定員2名)の3タイプが用意されています。この日は『ステラ』を独り占めしました。
浴室は丸太で作られています。内湯は近代的なユニットタイプ、露天風呂には、南谷さんがチェーンソーを使って大木をくりぬいた湯船が設置されています。寝そべってお湯に浸かることができるので、天気がいい日は青空や夕焼けが望めます。
比羅夫駅は車内放送で「公共交通機関もタクシーもないので、リゾートに向かう客は下車するな」とアナウンスされるほど、何もありません。露天風呂に入っていると、風に揺れる葉の音や鳥の声が聞こえてきました。
宿泊者限定でオリジナルタオルやワッペンを販売しています。兵庫県からやってきた宿泊客は「念願が叶った」と、湯上り後も興奮の様子。鉄道談義に話が弾みました。
「駅の宿ひらふ」の楽しみは、何といってもプラットホームで食べるBBQ(4〜10月中旬の木・金・土・日曜のみ提供)*です。場所を移して、鉄道談義の続きを開始します。
本日はジンギスカン・ホタテ・サンマ・ウインナー・エビ・タマネギ・ピーマン・なすびなどに、ソフトボールほどの大きさの焼きおにぎりが2個。デザートにブドウも添えられていました。通勤や通学の乗客には見慣れた光景らしく、とくに気に留める様子はありませんでした。
最終列車が入線しました。深夜のような雰囲気ですが、まだ21時28分。ここではゆっくりと時間が流れています。比羅夫駅で乗降する人は1人もいません。何事もなかったかのように列車が去り、街灯は無人のホームを照らしていました。
<施設情報>
■駅の宿ひらふ
■住所:北海道虻田郡倶知安町比羅夫594-4
■電話番号:080-5582-5241
⇒営業時間など詳細はこちら
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