2023.11.01
深める晴花さんが進みたい選択肢を見つけたのは、「ふつう」より、少し遅め。
センター試験を翌月に控えた12月。大阪・梅田で、獣医学や農学に特化した大学の説明会で引き留められ、たまたま座ったブースが、人生を大きく左右します。
北海道・江別にある酪農学園大学のブースです。「環境共生学」の説明で、10年以上経った今でも思い出せる言葉に出会いました。
「獣医学は、目の前の動物の命を救える学問です。環境共生学は、目の前の命は救えないかもしれないけれど、『なぜこの鳥は倒れているのか』を考えて、その次の鳥を助けることができる学問です」
縁もゆかりもなかった北海道で、”雪国での一人暮らし”というチャレンジができることも後押しし、志望校に決めました。
そして、見事合格。
クマとの出会いは、ここからです。
大学2年生になり、どの研究室に入るか決めるために、色々な調査に「お試し同行」する期間がありました。豊平川で魚や虫を捕まえたり、西興部に行って地元のハンターと話したり、真駒内駅に集合した後どこかの森に連れて行かれて、よくわからないまま丸太を運ばされたり、木に鉄線を巻き付けさせられたり…。
この丸太を運んだ日が、実は、鉄線に引っかかったクマの体毛や、近くに仕掛けたカメラの映像からクマの調査をするというフィールドワークでした。クマを捕獲せずに調査ができる方法です。
作業中は、あまり実感が湧いていなかったという晴花さん。しかしその日の最後に、学生OBのスタッフが、「こうして仕掛けたところに実際にクマが来たことがあるんだよ」と、過去に撮影された動画を見せてくれました。
「そのときの感動、わくわく感が印象に残っていて」と、声を弾ませて振り返ります。
こんな大きな不思議な動物がいるってすごい。いま自分がいる場所に来るなんて…。
クマの魅力に引き込まれた瞬間でした。
「当時はクマの注目度も今ほど高くなくて、迷いましたが、やっぱりヒグマが忘れられなくて。あの研究、絶対面白いなとどうしても思っちゃって」、クマの研究に進むことを決めました。
しかし晴花さん、在学中はあまり研究にのめり込んでいませんでした。
不真面目だったわけではなく、少林寺拳法部の活動にも一生懸命だったのです。大学4年生の11月まで全国大会に出るほどの活躍ぶりで、部や大会の運営にも関わっていたので、大忙しでした。同期の中で、「一番調査に行っていない人」だったといいます。
それなのに、なぜ卒業後も、北海道のクマ対策に関わるようになったのでしょうか?