この日は、ちかさんも出勤日。人を笑わせるのが好きなちかさんは、いつも個性的なメイクや衣装でお客さんを楽しませています。みゆきさんも、そんな息子の姿を笑って出迎えます。
てる子さんは、ちかさんときみちゃんふうふのほほえましいエピソードを話し出しました。
ちかさんのダイエットのために、優しいきみちゃんは野菜たっぷりの脂肪燃焼スープを作っていること。でもお腹がすいたちかさんは、スープだけでは足りずに、結局ピザやコーラを食べてしまうこと。
みゆきさんも、「きみちゃんは自分も仕事があるのに、毎日ちかのお弁当を作ってるんだって!」と楽しげに話します。2人がきみちゃんを褒めちぎるのを、ちかさんはうれしそうに聞いていました。
羅希ちゃんが生まれる予定日は、もう1か月ほど先に迫っていました。みゆきさんは、「これから育てていくにあたって、色んなことに向き合わなきゃいけない壁もあると思う」と言いながらも、「ばあちゃんとしては、見守っていきたいな」と力強く話しました。
てる子さんも「自分も、もう1人のばあちゃんとして」と、みゆきさんに少し頭を下げました。てる子さんは店のママとして、スタッフを子どものように思っているため、「ちかに子どもができるのは、孫ができるような気持ち」だといいます。
するとみゆきさんはてる子さんのほうを向き、きみちゃんのお母さんも含めた自分たちのことをこう言いました。「3人ばあちゃん」
てる子さんは一拍呼吸を置き、「ばあちゃん仲間ということでよろしくお願いします」と深く頭を下げました。
常連客のくらんさんがやってきました。てる子さんの指示を受けながら、ちかさんがビールを準備します。
3年ほど前から店に通ってきたくらんさんも、ちかさんときみちゃんを近くで見守ってきたうちの1人です。
「友達ふうふが子どもを授かったんだということが純粋にうれしい!男どうしのふうふだからとか、きみちゃんがトランスジェンダーだからうれしいっていうのは、特にない」
「常連みんなが近所のお姉さんお兄さんみたいな感じ」「(ちかさんもきみちゃんも)お父さんであり優しいお母さんでありっていう印象だから、すごく面白い子育てになるんじゃないかな」
くらんさんの言葉を、ちかさんは噛みしめるように、うなずいて聞いていました。
今の社会では、ちかさんときみちゃん、羅希ちゃんがぶつかる壁は、多いのかもしれません。それでも、この日の取材で、3人には味方が多くいることがわかりました。その存在は、3人のこれからを照らす「希望」のようで、そんな人たちに支えられた3人は、社会の壁を打ち壊す「希望」となるように感じました。
■こころが男性どうしのふうふと、新しい命を見つめた連載「忘れないよ、ありがとう」