“女性の社会参加”が叫ばれる一方で、2022年の日本のジェンダー・ギャップ(男女格差)指数は、146か国中116位と低い状態が続いています。とくに一次産業は、男性社会的な傾向が強く、女性の進出が難しい場合が多いようです。
2016年4月に設立した「十勝ガールズ農場」。新規就農モデルを十勝に創出することを目指し、女性を中心とした多角的な事業を展開しています。その経緯や目的を、代表の橋爪恒雄さんに伺いました。
橋爪さんの前職は高校の教員です。奥様の実家が農家だったことから、思うところあって40歳で就農し、義父から農業を学びました。
同時期に奥様は、農家の友人と一緒に、オシャレな農作業着を販売するショップ「アグリファッショングループ」をオープンしました。
橋爪さん夫妻は“農業をもっと身近に”をコンセプトに、地元の農業イベントに積極的に参加していました。そのときに就農相談を受けた3人の女性との出会いが、のちの「十勝ガールズ農場」に発展します。
彼女たちは、就農を目指して十勝エリアの自治体が主催した『レディースファームスクール』を受講していましたが、希望に合う就労先は見つかりませんでした。女性の農業参入は難しいうえに、“地域でできることは地域でやろう”という考えが根付いていることもあり、ほかの地域から参入しにくい傾向がありました。
「女性が農業に携わるためには、農家に“嫁入り”するほかありませんでしたが、それでは社会参加とは言えません。彼女たちの考えに賛同し、家族経営や家族継承ではない新しい農業スタイルの確立を目指そうと思いました」
最大の難関は農地の確保でしたが、「ともに農業を盛り立てていこう」という理解者が現れ、十勝平野を一望する丘陵地に約3ヘクタールの農地を取得。2016年に「十勝ガールズ農場」を設立しました。
小さな面積で効率的に収益をあげるために、栽培する農産物はフランスの地理的表示保護制度*を参考にブランディングしました。
作付け面積や収穫量では勝負できないので、小さな農地でも栽培ができる“とうもろこし”と“アスパラガス”などに着目しました。これらを直売することで、鮮度を保ったまま食卓へ届けることができます。
じゃがいもは、馬鈴薯やメークインだけでなく九州で栽培されている品種などを取り入れ、12〜15種類まで取扱い品種を増やすことで差別化を図っています。
「じゃがいもは越冬させることで糖度が上がります。一般的な農作物でも、付加価値をつけることで『十勝ガールズ農場』ブランドとして評価されます。東京の『自由が丘バーガー』さんに納品していますが、シンガーソングライターのあいみょんさんが、そのじゃがいもを使ったポテトがお気に入りだそうで、ラジオ番組で紹介してくれていました」
農業を軸に多角的に事業を展開しており、現在は企業や学校などの農業実習の受け入れが増えています。
農業大学校や調理師専門学校のような農業や食に関係した学校だけでなく、食育の一環として体験したり、野菜を提供しているリゾートホテルの宿泊客が、アドベンチャートラベル*の一環として農業体験をしたりすることもあるそうです。
「初期メンバーは卒業しましたが、その後も女性スタッフが中心であることは変わりありません。メンバーの中には農家のお嫁さんもいますが、家業を手伝っているのと違う感覚で、“一個人”として評価されていることに、やりがいを感じていただいているようです」
ジェンダーが叫ばれる時代に「ガールズ」を名乗ることに抵抗もあるそうですが、まだまだ農業界には男性社会が根強く残っています。橋爪さんたちは、「女性の農業など珍しくない」と言われる時代の訪れを期待しています。
アパレル展開も好調で、イベントではトラクターや農業をデザインしたTシャツやキャップが人気。『モンベル』の代理店にもなるなど、“カッコいい農業”を発信しています。
「アパレルは農業イベントなどで好評です。農業のイメージ向上に大きく貢献しています」と、橋爪さんは言います。
「十勝ガールズ農場」は、農作物の生産・販売だけでなく、体験やファッションなど、さまざまな方法で農業全体をブランディングしています。一般の方が参加できる食農体験もありますので、お揃いのアグリファッションをまとって農業を体験し、自ら収穫した野菜を味わってください。
<企業情報>
■株式会社アグリファッショングループ
■住所:北海道帯広市大正本町本通3丁目新6番地
■電話番号:0155-67-0370、【観光・野菜販売直通ダイヤル】090-6445‐0370
■ホームページ:http://agri-fashion.com/
【参考】
トピックス3|「共同参画」2022年8月号 / 男女共同参画局
地理的表示(GI)保護制度 / 農林水産省
【画像】株式会社アグリファッショングループ
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