2023.09.14
深める一杯のドリンクで、笑顔に。
かわいいラテアートで人気の札幌のカフェ。
店主の熊井弥(くまい・いよ)さんは、現在31歳。
「いつ死んでも後悔しない人生を送ろうってずっと思ってきたんです。幼い頃に交通事故にあったのもあるかもしれないんですけど」
高校卒業後に単身オーストラリアへ。日本で就職して、今度はカナダへ。
もともとはコーヒーが苦手で、カフェの経営に興味はなかったのに、帰国すると、コロナ禍のまっただなかにカフェをオープン。
親に反対されても、自分のやりたいことを貫いてきた理由とは。
カフェの人気の裏には、熊井さんの人柄からにじみ出る強さと優しさがありました。
多様な生き方連載「こう生きたっていい」
札幌・豊平区の「nounours cafe (ヌヌースカフェ)」。
白を基調にした店内には、いたるところに「クマ」が…。
nounours (ヌヌース)はフランス語でテディベアという意味。
店主の熊井さんは、子どものころから「くまちゃん」と呼ばれることが多かったそう。
人気なのは、ラテアート。
カナダのカフェで修行していた熊井さんが、クマやシマエナガなど、すらすらとかわいい絵柄を描きます。
プリンやバスクチーズケーキなど、スイーツもおいしい!
チーズケーキは、小麦粉ではなく玄米粉を使ったグルテンフリーのスイーツ。
カナダでは美容や健康のため、アレルギーのためにグルテンフリーを意識する人が多く、修行していたカフェでも「グルテンフリーが当たり前」だったので、それを引き継いだそう。
熊井さんは小麦粉アレルギーではありませんが、カナダでの経験をきっかけに「誰でも楽しめるように」とグルテンフリーを心がけています。
実際にアレルギーを理由に、グルテンフリーのスイーツを喜んでくれる常連客もできたといいます。
「お客さんが笑顔になってくれるので、やってよかった」と話していました。
【カフェのメニューの詳細は連載「ごほうび糖分」で紹介しています】
小さなころから英会話を習っていて、海外にあこがれがあったという熊井さん。
母親から「高校まではお願いだから日本に」と言われていたので、高校卒業後、19歳からオーストラリアへ。
帰国して、英会話スクールで働きますが、また海外に行きたいと、26歳のころ、2015年から今度はカナダへ。
カナダに住むことで「夢を達成した」のですが、ここで次の目標に出会うことになります。
実はもともとコーヒーが苦手で、カフェの経営に興味はなかった熊井さん。
カナダで友人の紹介でたまたま働いたのがカフェでした。
「それがすっごく楽しくて。天職だと思ったんです」
ラテアートでお客さんが笑顔になってくれること。
それが嬉しくて、カフェの楽しさに引き込まれていきました。
家族経営の小さなカフェ。「2店舗目を任せたい」と言われるほどになり、熊井さんも「そうしたい。ずっとカナダのカフェで働きたい」と思うようになりました。
しかし小さなカフェということもあり、ビザをとるのが難しく、カナダにわたって2年半がたった頃に帰国することになりました。
「だったら自分でカフェを」!
熊井さんは、日本で自分の店を持つことを決意します。
「カナダで次の目標を見つけて帰ってこられた。幸せに思っています」
でも、ちょうどコロナ禍のまっただなか。
29歳。母親からは「結婚して子ども産んで落ち着いてからやればいいじゃない」と説得されました。
友だちにももう子どもがいるし、自分自身も焦る気持ちがないわけではなかったけれど、「そしたら何年後になっちゃうんだろうと思ったので、強行突破です!」と笑う熊井さん。
コロナ禍でいい物件が空いているのではと、逆にポジティブにとらえて準備を進めました。反対されるので、周囲には内緒で。
白いカフェにしたいと思っていたら、もともと内装が真っ白でそのまま使えそうな物件に出会いました。
しかも地下鉄駅から徒歩1分。
物件の契約のときに初めて親に「ここまで進めた」と話し、「そこまでやる気なら仕方ない」と納得してもらったそう。
もともと絵は苦手だったという熊井さんですが、「すごく練習して」、今やすらすらと描きあげます。
カナダのカフェのオーナーも、熊井さんが店をもったことを喜んでくれていて、今も連絡を取り合っているといいます。
なぜ、そんなに意思を強く持って、やりたいことを貫けるのか。
「いつ死んでも後悔しない人生を送ろうってずっと思ってきたんです。やりたいことはやって、行きたいところは行って。幼い頃に交通事故にあったのもあるかもしれないんですけど」
小学校2年生。
新しく買ってもらった自転車で、友だちと住宅街を走っていたとき。
トラックとぶつかりました。
8メートルほど飛ばされ、意識を失った熊井さん。
頭蓋骨にひびが入り、「助かったのは奇跡」と言われるほどの大けがだったといいます。
だからこそ、まわりは高校卒業して進学が当たり前の環境でも、「やりたいことを後悔なく」と、19歳でオーストラリアへ。そしてカナダへ。
1年カフェを経営して、常連客が増え、「このカフェを長く続けること」が目標になりました。
ただ、1人で店をまわすつもりでしたが、実際に店を始めると、ラテアートをしているときに会計が重なったときなど、1人では大変な場面も出てきました。
そこで、今は母の優子(ゆうこ)さんが店を手伝っています。
優子さんに想いを尋ねると、「いやもう今は、私のほうが楽しくって!」と笑い飛ばします。
娘のラテアートでお客さんが喜ぶ姿に「涙がツーっとなっちゃうの」と教えてくれました。
取材で店を訪れた2回とも、「みんなもともとの知り合いなんだろうか」と思うほど、熊井さんがお客さんと話す姿を目にしました。
「何回も来てくれる人に、メッセージを書いて渡したりしているんです。それでお客さんのほうも話しかけてくれることがよくあって」
「2回目、3回目って来てくれるのがすごく嬉しくて。感謝は伝えたいと思っています。こんなにたくさんカフェがある中で、時間もお金も使って来てくれることがすごく嬉しい。『いらっしゃいませ』より『こんにちは』ということが多いかもしれません」
「一杯で笑顔に。ほっと一息、幸せな気持ちになってもらえればというのが、変わらない想いです」
ラテアートはもちろん、熊井さん親子の人柄にも、心温まるカフェです。
・札幌市豊平区平岸3条13丁目7−19
・最新の期間限定メニューや営業日時はインスタグラムでご確認ください
連載「こう生きたっていい」
文:Sitakke編集部IKU
※掲載の情報は取材時(2023年8月)の情報に基づきます。
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