2023.09.12
食べる札幌から車で約1時間、胆振の厚真町。
リピーター続出のカフェがあります。(私も、5年前からこの味のトリコです…)
おいしさの秘訣は、「紫の果実」。
厚真町の名産・ハスカップです。
おいしさの裏には、大きな困難の直後から挑戦を続けてきた、ハスカップ農家の強い想いがありました。
忙しい毎日に、ほっと一息、‟ごほうび糖分”を。
今回は、がんばるあなたのごほうびにも、がんばるマチの応援にもなる、スイーツのご紹介です。
連載「ごほうび糖分」
「山口農園 HASKAP-CAFE LABO」 (ハスカップカフェラボ)。
ハスカップ農家の山口善紀さんが営むカフェです。
ハスカップには酸っぱいイメージがあるかもしれませんが、山口さんのハスカップは「さわやかな甘さ」が特徴。
スムージーは、なめらかで濃厚!
たっぷりなのに、いつも「もうなくなっちゃった」と思います。
ソフトクリームは、ヨーグルトが入っていて、よりさわやか。
おなかいっぱいのときでさえ、おいしくてついつい食べ進めてしまいます。
(厚真町は米もおいしいので、町内の飲食店で米を食べすぎておなかいっぱいのときに行きました。それでも止まらないおいしさ…)
デパートの催事などでは、一日に2回も食べに来てくれる人もいるほど、リピーター続出の人気ぶりだそう。
今では全国のイベントで引っ張りだこの山口さん。
デパート催事への念願の初出店を果たしたのは、5年前。
札幌のデパートで行われた、北海道内の名産品を集めたイベントでした。
「悩んでいてもしょうがないので前向きに、このイベントに集中して進めてきました」
胆振東部地震から、わずか2週間ほど。
山口さんはこの頃、まだ避難所で生活していました。
2018年9月6日未明、震度7の揺れに襲われた厚真町。
山口さんの農園では、およそ5000本のハスカップのうち、500本ほどが土砂の下敷きになりました。
「毎年植えて育てる作物と違って、何年もかけて、20年以上かけて育てた木が失われた。愕然とした」
ハスカップは甘酸っぱい味わいで、栄養いっぱいのフルーツです。
厚真町は、ハスカップの作付面積が日本一。
北海道でおなじみの、ジャムを使ったロールケーキ「よいとまけ」のほか、ソフトクリームやゼリー、水など、北海道の特産品としてさまざまな商品が生まれています。
山口さんは、この15年ほど前に家業の農業を継ぎました。ハスカップを町の名産品にしたいという目標を持っていました。
まわりの農家と苗木を分け合うなど協力して、作付け面積を『日本一』に伸ばし、名実ともにハスカップのマチとして軌道に乗り始めた、その矢先の地震でした。
この年の出荷は終わっていましたが、また1からハスカップの木を育てるには、10年以上かかるといいます。
町内にはハスカップ農園がおよそ100軒あり、被害の全体像はまだつかめていなかった頃。
山口さんは避難所生活の中でも、初出店を諦めませんでした。
「ハスカップ栽培に誇り・夢・希望を描いている人がいっぱいいる。ハスカップのおいしさ伝え、需要を伸ばすことが、ハスカップを作る農家の気持ちをひっぱることになる」
実が大きく甘みが強いと評判の山口さんのハスカップは、スムージーに加工されます。
神奈川からの観光客は、「なんとか復興になればと。甘酸っぱくさわやかな味でおいしい」と話していました。
山口さんはお客さんの反応を見て、「本当にすごく嬉しい。いち早く一歩踏み出した姿を見せることで、みんなも復興に向けてがんばってほしい」と話していました。
「ハスカップ日本一の町」の誇り。
山口さんの姿に、支援の輪が広がっていきました。
千歳の菓子メーカーが厚真のハスカップを使ったお菓子を発売。
全国の百貨店から「物産展に出店してほしい」と、要望が寄せられました。大阪や福岡、ほとんど休みなく全国をまわりました。
「ハスカップを作ってきてよかったなって思うことがたくさんあった。復興の少しでも光に、希望になっていきたい」
地震から9か月がたつ頃、2019年4月。
山口さんは、町内に新しいお店をオープンさせました。
それが「山口農園 HASKAP-CAFE LABO」 (ハスカップカフェラボ)。
スムージーに、ソフトクリーム、そしてクレープと、厚真町のハスカップを存分に楽しめる専門店です。
さらに、地震で木や畑を失った仲間の農家に分けようと、ハスカップの苗木を育て始めていました。
その品種の名前が、「あつまみらい」。
厚真の未来を背負って立つ、そんな作物にしたいと願いを込めました。
厚真町を『被災地』ではなく、『ハスカップ日本一の町』として知ってほしい。
その想いで5年間を駆け抜けてきました。
全国のイベントを飛び回ったり。
厚真町のコメ農家を応援するため、道産食材にこだわったハスカップの佃煮を開発したり。
パティシエの仲間を迎えて、札幌のデパートで期間限定のハスカップカフェを開いたり。
胆振東部地震から5年目の9月6日も、広島の催事会場で迎えました。
今、厚真町のカフェでは、スムージーやソフトクリーム、クレープなどの定番メニューのほか、毎月のように新メニューを出しています。
焼き菓子も充実。
パティシエがひとり一人の希望を受けて作る、オーダーケーキも人気です。
これから推していきたいのは、ハスカップの「パイまんじゅう」。
バターが香るパイ生地の中に、ハスカップの「あん」がぎっしり詰まっています。
さすが、山口さんのハスカップ。
さわやかな甘さで、こちらももう一つ食べたくなるようなおいしさです。
山口さんは、「常温でOKなので、これをお土産として推していきたいんですよ」と笑顔で話していました。
最大震度7に見舞われた厚真町。
失った命も、家も、仕事も…取り戻せないものも多くあります。
それでも「マチの元気」は、元に戻すのではなく、以前よりも盛り上げていきたい…。
自分の生活も変わった中で、5年間、前を向いて歩み続けてきた山口さん。
これからも厚真町の「魅力」を発信していきます。
・厚真町表町53−6
・最新の営業時間はインスタグラム でご確認ください
連載「ごほうび糖分」
胆振東部地震から5年。道内各地の今や、これからの防災に関する情報は、Sitakkeの特集「秋冬のじぶんごと防災」でお伝えしています。
※掲載の内容は取材時(2018年9月~2023年9月)の情報に基づきます