2023.09.01

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開校2年目の夏…札幌市立星友館(せいゆうかん)中学校【連載】星のまなびや~札幌発・夜間中学校に集う人々・プロローグ

なぜ学ぶのか?なぜ学ぶことができなかったのか?

校舎の前に建つ二宮金次郎像

札幌の繁華街、すすきのにネオンが灯る頃、その学舎(まなびや)に人々が通学して来ます。札幌市立星友館中学校は、すすきのに隣接する一角に、去年4月開校した北海道で唯一の公立夜間中学校です。高齢者、不登校経験者、外国出身者…通うべき時期に中学校へ行くことができなかった人が在籍しています。
10代から80代までの多様な老若男女が、中には過酷な経験をした人が、夜の帳(とばり)の降りた校舎に机を並べています。

なぜ学ぶのでしょうか?なぜ学ぶことができなかったのでしょうか?何を求めて集うのでしょうか?
星空の下、学び直しをする人々のそれぞれの事情と姿をお伝えします。

まず、舞台となる学校とは?夜間中学校を巡る状況は?【開校2年目の夏~札幌市立星友館(せいゆうかん)中学校】です。

星を友に学ぶ

校章

校舎に入ると、下駄箱が並ぶ薄暗い玄関に、校章がバックライトに照らされて浮かび上がっています。星の形に似た麻柄模様が校章に選ばれたのは「真っ直ぐに、どこまでも高く成長する」という思いが込められ、夜空の星を友に学ぶ人々にエールを送っています。

高齢者・不登校経験者・外国出身者…それぞれの過去

星友館中学校の校舎

夜間中学校は、義務教育を修了できなかった人たちのために設置されています。高齢の生徒では、終戦直後の1947年に義務教育の期間が6年から9年に変わって新制中学校が発足した時期に、社会の混乱や経済的な事情で進学の機会を逃した人が多くいます。

また不登校を経験したり、出身国の事情で十分な教育を受けることができなかった外国出身の生徒も増えつつあります。このため国は、各都道府県や政令指定都市に最低1校の設置を目指して教育の場を増やそうとしていますが、公立の夜間中学校の開設は、今年4月の時点で23都道府県の計44校に留まっています。

「生徒さん」とは対等の立場

授業前の懇談の様子

札幌市立星友館中学校は、去年4月に新しく開校した北海道で唯一の公立夜間中学校です。2年目の今年度は、4月の時点で20人の新入学者を受け入れました。その結果、在籍者は10代から80代までの老若男女105人となり、札幌市内や近郊の市町村から週5日の授業に通っています。

北海道の学校の夏休みは短く、2学期はきょう(8月21日)、始まります。

時間割の例(同校のホームページより)

授業は午後5時30分から9時までの3時間30分の間に、休み時間をはさみながら毎日4コマあり、途中、給食の時間もあります。費用は無償で、教材費もかかりません(ただし、給食代=1食300円や一部教材費など必要なものもありますが、これらも事情に応じて支援制度を活用することができます)。

夏休みや冬休みがあり、運動会に相当するスポーツ交流会や学芸会に相当する文化学習発表会など昼間の中学校と変わらない行事もあります。しかし定期テストのような試験はありません。生徒はそれぞれの能力に応じて少人数のクラスに分けられます。

連絡のための配布物やホームページには、すべての文字にひらがなのルビが振られるなど、文字を読み書きできない人への配慮もなされています。

校長 工藤真嗣教諭

校長の工藤真嗣(くどう・まさし)教諭は、夜間中学校の必要性を静かに語ります。

「夜間中学校には、自己肯定感を高めていただく役割もあります。生徒さんの中には年上の方もいらっしゃいますから、教職員はすべての方を『生徒さん』と呼び、対等の立場で接しています。私たちも教えられることがたくさんあるのです。お金がないから学べないということがないようにすることも、夜間中学校の役割です」。

校歌・校章に込められたエール

校舎

校歌は「寒さに磨かれる星よ あの煌(きら)めき…」という北国らしい歌詞で始まります。札幌出身のシンガーソングライター、半﨑美子(はんざき・よしこ)さんが、札幌市から依頼を受けて作りました。タイトルを「私の物語」とした理由に、強い思いを込めています。

シンガーソングライター・半﨑美子さん

「お話をいただいたのは開校の前の年でコロナ禍の最中だったんです。当時、夜間中学校のことはまったく知らなかったので、まず生徒さんや先生に会ってみたいと思いました。そうしたら居ても立ってもいられなくなって、少し調べて、東京の荒川第九中学校に行ってみたんです。でも何の連絡もしてなかったので、ただ校門の前をうろうろして…。

その後、改めて連絡してお話を聞きました。お一人お一人の表情や学校の空気感は、思っていたより明るいんです。でもそれぞれの方がそこにたどり着くまでのことを知ると、それを言葉にできるまでにはどれほどの試練があったかと思い至って、胸がいっぱいになりました。私は器とかフィルターに過ぎないんです。大きな声は私が歌にしなくてもどこかに届くでしょう?でも小さなそれぞれの『私の声』を届けたいと思いました。夜空に輝く星は、実際には燃えているんですよね。その燃える夜に学校へ通う人たちがいるんです」。

校章

校章の左側の白い部分は、地球の裏側から漏れ出た昼の光を表しています。そして夜空を星と共に照らすもう一つの天体=月も表現しています。
時に何かの影になっても、誰もが星の如く輝く存在である。このことを私は本連載の取材で、「星のまなびや」に深く教えられることになります。

*注1)北海道には公立の夜間中学校とは別に、元教員らのボランティアが運営する「札幌遠友塾」など民間の夜間中学(自主夜間中学)が3校あります。これらの中学は、学校としての認可を受けていないため、中学校の卒業資格を得ることはできませんが、週1回の緩やかなスケジュールで、既に中学校を卒業してゆっくり学び直しをする人や、日本語を習得したい外国人らが学ぶ場として1990年から存続しています。札幌市立星友館中学校は、札幌遠友塾の実績を元に、週5日制の公立中学校として開設されました。

*注2)東京都荒川区立第九中学校は1957(昭和32)年に夜間学級を開設し、全国の夜間中学校のモデル校となっている中学校です。映画「学校(監督・脚本:山田洋次)」の舞台にもなりました。

東京都荒川区立第九中学校夜間学級のホームページに掲載されている卒業生の詩

*注3)札幌市立星友館中学校は、入学を随時受け付けています。9月から12月までの間に受け付けの場合は来年4月入学となり、来年1月から8月までの間に受け付けの場合は来年5月から10月までの間の入学となります。詳細は同校へお問い合わせください。

体育館に掲げられている校歌

*注4)札幌市立星友館中学校・校歌「私の物語」 作詞作曲:半﨑美子/編曲:   
    蔦谷好位置(同校ホームページより=同ページでは半﨑美子さんの歌唱
    聴くことができます)

1. 寒(さむ)さに磨(みが)かれる星(ほし)よ あの煌(きら)めき
  一(いち)途(ず)に励(はげ)み 燃(も)え立(た)つ希(き)望(ぼう)の姿(すがた)
  やっとめぐり逢(あ)えた友(とも)よ あの喜(よろこ)び
  迷(まよ)いながら 見(み)つけた遙(はる)か故郷(ふるさと)
  いま生(い)きよう 私(わたし)の物(もの)語(がたり)を
  さぁ描(えが)こう 自(じ)分(ぶん)のページを

2. 雪(ゆき)の中(なか)で芽吹(めぶ)く種(たね)よ その命(いのち)は
  たゆまず明日(あす)を 夢(ゆめ)見(み)た 未(み)来(らい)の光(ひかり)
  時(とき)を分(わ)かち合(あ)える友(とも)よ その涙(なみだ)は
  折(お)れずに挑(いど)み続(つづ)けた 確(たし)かな証(あかし)
  いま拓(ひら)こう あなたと自(じ)由(ゆう)な道(みち)を
  さぁ鳴(な)らそう はじまりの鐘(かね)を

3. 再(ふたた)び開(ひら)かれる扉(とびら) この学(まな)び舎(や)
  世(せ)代(だい)を越(こ)え 海(うみ)を越(こ)え 結(むす)んだ絆(きずな)
  学(まな)びの灯(ひ)は いつの時(と)代(き)も この心(こころ)を
  ありのままにうつした 輝(かがや)く軌(き)跡(せき)
  いま繋(つな)ごう 新(あら)たな物(もの)語(がたり)を
  さぁ歩(あゆ)もう 終(お)わりなき旅(たび)を
  果(は)てなき学(まな)びを

◇文:HBC・油谷弘洋

Sitakke編集部

Sitakke編集部やパートナークリエイターによる独自記事をお届け。日常生活のお役立ち情報から、ホッと一息つきたいときのコラム記事など、北海道の女性の暮らしにそっと寄り添う情報をお届けできたらと思っています。

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