2023.08.21
深める人口減少が進む日本は、今、50人に1人の割合の「外国人」が、将来は10人に1人になります。
そんな外国人を働き手として確保するため、国は評判の悪い技能実習制度の見直しを始めましたが、北海道内にはそのヒントになる外国人労働者に人気の農場があります。
その取り組みを取材しました。
連載「じぶんごとニュース」
北海道北部、士別市のしずお農場です。
見渡す限りの農場は、東京ドーム67個分の広さ。
希少な「サフォークひつじ」の飼育が行われています。
農場を訪れたこの日、日本語の授業が行われていました。
参加しているのは、2週間前に日本にやって来たベトナム、パキスタンからの技能実習生です。
日常会話や生活のルールを学びます。
技能実習生を受け入れているのは、しずお農場など4つの企業でつくる組合。
この農場では働き手不足を補うため、2015年から外国人技能実習生を受け入れてきました。
8年前に来日した、ベトナム出身のチオン・テイ・キム・ゴックさん。
「親の家を建てたいです。その目的で日本に来ました」
ゴックさんは、しずお農場で3年間、トマト栽培やヒツジの世話を経験して、在留期限を迎えて帰国。
しかし、もう一度しずお農場で働きたいと、最長5年働くことができる「特定技能1号」の資格を取り、日本に戻ってきました。
今は、経理で技能実習生のサポートや、農場のレストランで調理の仕事をしています。
ゴックさんは、「仕事では仲間、仕事終われば友達、相談できるし。会長と奥さんは、おじいちゃんとおばあちゃんみたい、みんなを育ててくれる」と話します。
ベトナム出身の同僚・フェンさんは、「大変なことがあったらすぐ相談して聞ける、会長や奥さんがいるのですごく安心」と話していました。
1993年に始まった技能実習制度は、外国人に日本に来てもらい、技能を学んでもらって、本国に戻って、いかしてもらおうという「国際貢献」の仕組み。
しかし、事実上、日本の労働力不足を補う手段として利用されてきました。
低賃金や長時間労働などが続出していたのです。
技能実習生らを受け入れる組合・レインボー事業協同組合の今井裕代表理事は、日本側の問題点を指摘します。
「外国人だという差別をしない。ただ単なる安い労働力ではなくて、本当の意味での仲間として共生する、共に生きることを念頭に置くことが必要」
いま国は、国際貢献を名目に30年続いた技能実習制度を廃止し「人材確保」を目的として、新たな制度づくりに動きはじめました。
新制度は「労働力の確保」を目的に、長期滞在を可能にして、転職も一定の制限内で可能になることを目指します。
今井さんは、「いかに外国人労働者のモチベーションを高めるか、やる気を出すか。日本に、北海道に来てよかったと思う環境づくりをしていくことで長くいてくれる」と話します。
しずお農場が、外国人労働者を受け入れて8年。
その間、辞めた人は1人もいません。
外国人が長く働き続ける理由とは。
2020年のゴックさんとフェンさんの結婚式の様子です。
士別市のしずお農場では、これまでに5組が結婚、4人の子どもが生まれました。
「働きやすく、生活の支援も充実している」。
今井さんのもとには、コロナ禍の最中も、技能実習生が相次いでやって来たといいます。
「技能実習生同士のネットワークはすごい。会社が違ってもお互い交流できたり、何か困ったときには手助けできるような体制を取ってあげたい」
午後5時。ゴックさんが仕事を終え、向かったのは市内の保育園。
もうすぐ2歳になる長男・圭くんを迎えに行きます。
夕方には、夫のライ・チョンさんが帰宅。
以前、本州の建設会社で働いてましたが、しずお農場に移り、残業もなく、給料など待遇面も大きく改善したといいます。
「奥さんと一緒に暮らせる環境が一番いいところ。仕事も簡単ではないけど働きやすい。ずっとここに住みたい」
ゴックさんは、「ここでの生活ができたので、どこも行きたくないです」と話します。
家族3人で過ごす時間が、なによりの楽しみ。
これからの夢を聞くと…
ライ・チョンさん「会社を作りたい!」
ゴックさん「何の会社?」
ライ・チョンさん「私は農業の専門知識があるから農業の会社をつくりたい」
人口減少による働き手不足の日本は、外国人労働者なしでは立ち行かなくなる現実が、もうそこまで来ています。
いま北海道内で働く外国人技能実習生は1万2500人で、外国人労働者の45%を占めています。
しかし技能実習制度をめぐっては、長時間残業・賃金の不払い・実習生の失踪などが起こり、アメリカからは「人身売買」、国連からは「債務奴隷型の状況」と批判され、国も、ようやく制度の見直しに動き出した形です。
少子高齢化によって、外国人労働力を抜きに、これからの日本社会は成り立たなくなります。
途上国の経済発展で賃金の優位性も薄れつつある今、外国人の満足度・魅力を高めることが大切です。
連載「じぶんごとニュース」
文:HBC報道部
編集:Sitakke編集部IKU
※掲載の内容は「今日ドキッ!」放送時(2023年8月8日)の情報に基づきます。
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