塀の中で、知名度が抜群。
「受刑者のアイドル」と呼ばれる女性デュオがいます。
コロナで中止になっていた全国の刑務所でのコンサートを、北海道内から再開。
その様子に密着しました。
連載「じぶんごとニュース」
会場に歌声が響きます。
女性デュオ「Paix2(ぺぺ)」、「Manami(まなみ)さん」と「Megumi(めぐみ)さん」です。
耳を傾けるのは、服役中の受刑者。
これは、塀の中のコンサート=「プリズンコンサート」です。
2人は「受刑者のアイドル」と呼ばれています。
日本で最も北にある刑務所、網走刑務所。
刑期は10年未満、およそ500人の男性受刑者が収容されています。
この日の朝食は、雑穀米とひじき、豆の煮物に味噌汁です。
受刑者は、出所後5年以内に新たな罪を犯した「累犯者」。
中には18回も、再犯を繰り返した例もあります。
起床、点検、刑務作業と、所内のスケジュールは分刻み。
網走刑務所では、バッグや小物入れを作ったり、「監獄和牛」と呼ばれる肉牛を育て、出荷しています。
受刑者は、自分が作ったり、育てたりした製品が売れて、評価される喜びを知ります。
刑務所のグラウンドでは、一緒に話をしながら走ることができる人数は、2人までと決められています。受刑者同士のもめごとを避けるためのルールです。
塀に囲まれ、規律を徹底し、自らの罪と向き合う受刑者たち。
そんな受刑者にとって、社会と接する数少ない場が、ペペのコンサートです。
機材を運び込むことから、ぺぺの仕事は始まります。
スピーカーの不具合をアーティストが調整するのは、当たり前の風景です。
まなみさん「出てますね、音!出ました!」
マネージャーが運転する車に機材を積み込み、全国を移動します。
めぐみさんは、「各地の刑務所・少年院の位置を把握している。観光地より矯正施設の場所を知っている」と話します。
コンサートの報酬は、交通費程度。
滞在費用などを合わせると、実質赤字です。
まなみさんは刑務所コンサートについて、「やったところで歌が広まるわけでもないし、知名度が上がるわけでもないし。しかも、自分たちでお金を出してまわるわけじゃないですか、これはどうなんだろうって」とも話します。
2人は、地元、鳥取のカラオケ大会で出会い、今のマネージャーにスカウトされて、2000年にデビュー。
めぐみさんは「看護師」、まなみさんは「大学の研究助手」のキャリアを捨ててのチャレンジでした。
「手探りの期間も結構長かったです。地元・鳥取以外のインストアライブでも、お客さんが思ったほど集まらないのは経験しているので、そういう意味では大変だなって思いながら、頑張っていました」と振り返るめぐみさん。
将来を迷う中、警察関係者の勧めで出会ったのが「プリズンコンサート」でした。
さあ、506回目のコンサートが、始まります。
コロナで中止になった、おととし3月以来のコンサートです。
本来、受刑者に許されるのは手拍子だけ。
この日は、特別に「こぶしを上げること」「声を出すこと」も許されました。
あの堀江貴文さんが、獄中記で「完璧」と絶賛した「受刑者イジリ」も慣れたものです。
まなみさんが「ぺぺのステージを初めて見る人?」と声をかけると、観客からまばらな拍手。
一方、「3回目以上の人は?」と聞くと、先ほどより大きな拍手…。
めぐみさんが「ベテランじゃないの」と突っ込みます。
外で待つ家族、初めての面会の様子を綴った娘の手紙も紹介しました。
「母が面会の最後に、お父さんみんな待ってるよと言ったのです。父はうんうんとうなずきながら、職員さんに促されて、扉の向こうに振り返りながら消えていきました」
受刑者は、「待ってる人間もいますので、手紙の内容は、ちょっと心に響くものがありました。無事故で1日でも早く出所して…待ってる人が、私に限らずみんないますので」と話していました。
5月、令和になって初めて開かれた「園遊会」。
各界で活躍する著名人と一緒に、ぺぺを代表して、めぐみさんに招待状が届きました。
デビューから23年、積み重ねてきた時間が認められた瞬間です。
めぐみさんは、「ぺぺとしての歌手活動っていうのは、キラキラしたものではなくて、小さい頃に思い描いてた歌手の姿と違うけれど、たぶんペペの歌手活動を継続してた方が意味があるものだったな、とは感じてます」と話します。
まなみさんは、「テレビに出て、音楽番組として歌うのは、たぶん数は少ないんでしょうけど、こういう場所で歌ってきたからこそ、必要とされるお仕事もあるので、自分の中では天職になるほうかなとは、思っています」と話していました。
ペペは普段は東京を拠点に、全国各地のイベントでのコンサートやCD販売など、塀の外での活動も精力的に行っています。
そこで得たお金の一部をプリズンコンサートの費用に充てています。
長年活動を続けているペペのもとには、出所した受刑者からの感謝の手紙や実際にコンサートに来て「まじめに働いています」と近況を知らせに来てくれることが、たくさんあるそうです。
“塀の外”での再会を信じて、「受刑者のアイドル」は、これからも受刑者たちと向き合い続けます。
連載「じぶんごとニュース」
文:HBC報道部
編集:Sitakke編集部IKU
※掲載の内容は「今日ドキッ!」放送時(2023年7月18日)の情報に基づきます。
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