2023.07.26

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「受刑者のアイドル」報酬は交通費ほど、実質赤字なのに歌い続ける理由とは

塀の中で、知名度が抜群。
「受刑者のアイドル」と呼ばれる女性デュオがいます。

コロナで中止になっていた全国の刑務所でのコンサートを、北海道内から再開。
その様子に密着しました。

連載「じぶんごとニュース

会場に歌声が響きます。
女性デュオ「Paix2(ぺぺ)」、「Manami(まなみ)さん」と「Megumi(めぐみ)さん」です。

左からManamiさん、Megumiさん

耳を傾けるのは、服役中の受刑者。

これは、塀の中のコンサート=「プリズンコンサート」です。
2人は「受刑者のアイドル」と呼ばれています。

日本で最も北にある刑務所、網走刑務所。

刑期は10年未満、およそ500人の男性受刑者が収容されています。

この日の朝食は、雑穀米とひじき、豆の煮物に味噌汁です。

受刑者は、出所後5年以内に新たな罪を犯した「累犯者」。
中には18回も、再犯を繰り返した例もあります。

起床、点検、刑務作業と、所内のスケジュールは分刻み。

網走刑務所では、バッグや小物入れを作ったり、「監獄和牛」と呼ばれる肉牛を育て、出荷しています。

受刑者は、自分が作ったり、育てたりした製品が売れて、評価される喜びを知ります。

刑務所のグラウンドでは、一緒に話をしながら走ることができる人数は、2人までと決められています。受刑者同士のもめごとを避けるためのルールです。

塀に囲まれ、規律を徹底し、自らの罪と向き合う受刑者たち。

そんな受刑者にとって、社会と接する数少ない場が、ペペのコンサートです。

機材を運び込むことから、ぺぺの仕事は始まります。
スピーカーの不具合をアーティストが調整するのは、当たり前の風景です。

まなみさん「出てますね、音!出ました!」

マネージャーが運転する車に機材を積み込み、全国を移動します。

めぐみさんは、「各地の刑務所・少年院の位置を把握している。観光地より矯正施設の場所を知っている」と話します。

コンサートの報酬は、交通費程度。
滞在費用などを合わせると、実質赤字です。

まなみさんは刑務所コンサートについて、「やったところで歌が広まるわけでもないし、知名度が上がるわけでもないし。しかも、自分たちでお金を出してまわるわけじゃないですか、これはどうなんだろうって」とも話します。

2人は、地元、鳥取のカラオケ大会で出会い、今のマネージャーにスカウトされて、2000年にデビュー。
めぐみさんは「看護師」、まなみさんは「大学の研究助手」のキャリアを捨ててのチャレンジでした。

「手探りの期間も結構長かったです。地元・鳥取以外のインストアライブでも、お客さんが思ったほど集まらないのは経験しているので、そういう意味では大変だなって思いながら、頑張っていました」と振り返るめぐみさん。

将来を迷う中、警察関係者の勧めで出会ったのが「プリズンコンサート」でした。

さあ、506回目のコンサートが、始まります。
コロナで中止になった、おととし3月以来のコンサートです。

本来、受刑者に許されるのは手拍子だけ。
この日は、特別に「こぶしを上げること」「声を出すこと」も許されました。

あの堀江貴文さんが、獄中記で「完璧」と絶賛した「受刑者イジリ」も慣れたものです。

まなみさんが「ぺぺのステージを初めて見る人?」と声をかけると、観客からまばらな拍手。
一方、「3回目以上の人は?」と聞くと、先ほどより大きな拍手…。
めぐみさんが「ベテランじゃないの」と突っ込みます。

外で待つ家族、初めての面会の様子を綴った娘の手紙も紹介しました。
「母が面会の最後に、お父さんみんな待ってるよと言ったのです。父はうんうんとうなずきながら、職員さんに促されて、扉の向こうに振り返りながら消えていきました」

受刑者は、「待ってる人間もいますので、手紙の内容は、ちょっと心に響くものがありました。無事故で1日でも早く出所して…待ってる人が、私に限らずみんないますので」と話していました。

5月、令和になって初めて開かれた「園遊会」。
各界で活躍する著名人と一緒に、ぺぺを代表して、めぐみさんに招待状が届きました。

デビューから23年、積み重ねてきた時間が認められた瞬間です。

めぐみさんは、「ぺぺとしての歌手活動っていうのは、キラキラしたものではなくて、小さい頃に思い描いてた歌手の姿と違うけれど、たぶんペペの歌手活動を継続してた方が意味があるものだったな、とは感じてます」と話します。

まなみさんは、「テレビに出て、音楽番組として歌うのは、たぶん数は少ないんでしょうけど、こういう場所で歌ってきたからこそ、必要とされるお仕事もあるので、自分の中では天職になるほうかなとは、思っています」と話していました。

ペペは普段は東京を拠点に、全国各地のイベントでのコンサートやCD販売など、塀の外での活動も精力的に行っています。
そこで得たお金の一部をプリズンコンサートの費用に充てています。

長年活動を続けているペペのもとには、出所した受刑者からの感謝の手紙や実際にコンサートに来て「まじめに働いています」と近況を知らせに来てくれることが、たくさんあるそうです。

“塀の外”での再会を信じて、「受刑者のアイドル」は、これからも受刑者たちと向き合い続けます。

連載「じぶんごとニュース

文:HBC報道部
編集:Sitakke編集部IKU

※掲載の内容は「今日ドキッ!」放送時(2023年7月18日)の情報に基づきます。

Sitakke編集部

Sitakke編集部やパートナークリエイターによる独自記事をお届け。日常生活のお役立ち情報から、ホッと一息つきたいときのコラム記事など、北海道の女性の暮らしにそっと寄り添う情報をお届けできたらと思っています。

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