2023.06.01

深める

「出産前は夫が大好きだったのに…」気持ちが離れる産後クライシスの背景と向き合い方

みなさんは「産後クライシス」という言葉をご存じでしょうか。これは病名ではありません。
産後の夫婦関係がうまくいかない状況を「産後クライシス」という言葉によってテレビ番組で紹介されたのが約10年前。夫婦関係が危機的状況に陥るのは産後に限ったことではありませんが、産後に起きやすいためこのような名称が作られ、受け入れられ、浸透しました。そのくらい多くの方が、産後の夫婦関係で悩んでいるということの現れだといえます。
今日は産婦人科領域で、長年、心理士として勤務する筆者が、産後の夫婦関係に生じやすい食い違いの背景と、少し気持ちが楽になる考え方をご紹介します。

楽しい変化もストレス

良い変化も人にとってはストレスになります。楽しいこと、うれしいことであっても、変化がストレスになります。そのため、望んでいたことであったとしても妊娠、出産はその夫婦、家庭においてストレスとなります。変化に適応していくために、男性も女性もエネルギーを要するのです。
産後の生活は、どの家族メンバーにとっても大きな変化になります。父親にとっても母親にとっても、兄姉にとっても。まずは変化=ストレスにさらされているのだということを自覚しましょう。

相手に期待する内容が変わる場面、変わらない場面

新しい家族が増えたという現象は同じでも、家族メンバーが感じる変化はそれぞれです。お互いに求めるものが変化する部分とそうでない部分が出てきます。

夫婦二人のときは、異性としての役割をお互いに求めます。男性が多少乱暴な言葉遣いをしてもそれほど気にしない女性が、母親となって相手にも父親としてのふるまいを期待するとき、「その乱暴な言葉は子どもの前では使ってほしくない」と気になるようになります。男性としてみれば、それまでは嫌な顔をされることがなかった場面で相手がイライラし始めるので戸惑い、嫌な気持ちになります。女性として、自分の話を聞いてくれることをこれまで通りに相手に求めているだけなのに、その期待が裏切られることになります。

この場面では女性が相手に求めることが変わり、男性が相手に求めることが変わっていないことで、お互いに戸惑い、不満が生じています。ですが、もちろん逆の場面もあります。

わかってもらいたいことは伝える

産後の生活は待ったなし。忙しい日々です。そのため、自分の変化、相手に求めることが変化していることにも気づくことが難しいのです。でも、自分ですらわかっていないことを相手に理解してもらうことは無理です。何より、自分がわからないことほど気持ちがもやもやすることはありません。
まず、自分が相手に求めていることが変わっていないのか確認しましょう。そして、その変化を相手にわかってもらいたいと思うのであれば、きちんと伝えましょう。
「わかってもらいたいと思っているのか」と考えることは大事なことです。伝えること自体、そう簡単ではない場合も少なくありません。伝えることが苦手な方も多いでしょう。なんでもかんでも「伝えなくてはいけない」と産後の忙しいときにタスクを増やす必要はありません。でも「伝えてわかってもらいたい」と思うのであれば、きちんと伝えます。
状況を伝え、自分がどう感じていて、何をしてほしいのかをセットで伝えましょう。もし、伝えるエネルギーが大きすぎると感じる場合は、「伝えない」という選択肢を選んでも良いです。ただ、その場合は 「相手はわかっていなくて当たり前」と受け止める必要があります。一見冷たいようですが、実際、「自分が『言わない』という選択肢を選んだのだから、わからないのは自然なこと」と受け止めることができると、「言えない」ともやもやするよりもずっと楽に日々を過ごせます。

こまめに自己理解の修正をする習慣をつけること

産後は夫婦関係において通過点の一つです。それぞれの家庭での役割が変化し、求めるものが変わります。それぞれの本質が変わったわけではありません。「どうしてこんなにわかってくれないんだろう」「どうしてこんな人になっちゃったんだろう」とお互いの変化や変化しない部分を嘆くことも多いでしょう。でも、その状況がずっと続くわけではないのです。

夫婦お互いに求めることが変化するのは産後以降にも続きます。子どもの年齢によっても変化しますし、子どもの独立や退職などによって“父として・母として”ではなく、再び“男性として・女性として”の役割を求めるようになっていきます。今このとき、相手に何を求めているのか、自分の気持ちを少し考えて、具体的に伝えることを検討してみるといいですね。

自分自身の変化をその都度理解して、自己理解を深めていくことは、夫婦関係以外にも親子関係、友人関係を楽しく、豊かにしていくことにもつながります。「相手のために」とばかり考えると、「大変なときに何で自分が……」と思いがちですが、今の自分を知り、こまめに自己理解を修正することは、あなたの心の安定を維持するために役立つと思います。

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文:竹原久美子(公認心理師/婦人科クリニック勤務)
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【ライター:竹原久美子 PROFILE】
中学時代、寄り添ってくれる人の大切さを感じ、心に寄り添う仕事につくことを決める。
「人生の始まる現場で学びたい」と産婦人科での実習を希望し、そのまま、産婦人科で女性の心に寄り添い続けてもうすぐ20年。
土地柄を肌で知っていることは心の理解にも役立つという想いで、地元札幌で臨床に携わり続けている。

【画像】maruco、つむぎ、mimi@TOKYO、polkadot / PIXTA(ピクスタ)

Sitakke編集部

Sitakke編集部やパートナークリエイターによる独自記事をお届け。日常生活のお役立ち情報から、ホッと一息つきたいときのコラム記事など、北海道の女性の暮らしにそっと寄り添う情報をお届けできたらと思っています。

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