2023.05.03
深めるこの記事は、北海道のWEBマガジン「Sitakke」の編集部が、さいきん気になる”道民”をご紹介する不定期コラムです。今回は番外編ということで、ご紹介するのは、”道民”ではなく…?スペシャルなゲストをお迎えしました。
先日、いつものようにTwitter上を徘徊していたところ、一枚の写真が筆者のタイムラインに流れてきた。
スーツ姿をビシッとキめた、男性がふたり。社運をかけたプレゼン前の最終チェックか、はたまた、重大なミーティング前のすり合わせだろうか。すごく真剣なまなざしだ。
一体、このふたりは何者なんだ?と、ツイート詳細を見てみると…
「今夜どこのラーメン屋にするか協議、検討、(・・・)熟考、議論しているところです」
えっ?こんな真剣な表情で、どこのラーメン屋に行くかって話…?
ん?投稿者は…“駐日ジョージア大使”!?
「大行列のため、引き下がる判断をとりました。札幌の激しいラーメン情勢をしっかりと受け止めて、議論をさらに深めていきます」。
しかも、札幌!!
なぜ、こんな面白そうなお方が、はるばる北海道へ?
ん?他の投稿には「北海道のワイナリ―を見にきた」と書いてある。
なぜ、大使がワイン?なぜ北海道?
これはぜひご本人にお話を色々聞いてみたい!!
さっそく、ZOOM取材の依頼メールを送ってみたところ、快くOKの返事が。
ということで今回は、駐日ジョージア大使のティムラズ・レジャバさんにお話をうかがいます!
筆者:レジャバさん、では、ZOOM取材よろしくお願いします!
レジャバ大使:よろしくお願いします。あ、分析官のダヴィドもいま入室してきたね。
ダヴィド分析官:よろしくお願いします。色々、お話しますよ~。
筆者:(ダヴィドさん…?あ!!例の「ラーメン屋探し」の写真にいた人だ!)
レジャバさん、ダヴィドさん、よろしくお願いします!!
北海道滞在中のお話など、聞いてみたいことは沢山あるのですが、まずは、そもそも「ジョージア」という国についてお話を聞きたいです!ズバリ、ジョージアの魅力はどんなところですか?
レジャバ大使:ジョージアは、魅力いっぱいの国なので、一言で表すのが難しいですが、う~ん、そうですねえ、やっぱり文化としての「ワイン」は、欠かせないですね。今日は、3つの観点から、ジョージアにおけるワインの魅力をお話することにします。
レジャバ大使:ジョージアは、ワイン発祥の地です。ジョージアという国を語るうえで、ワインは欠かせない存在です。
まずは、第一に、「ワインの味」そのものが美味しい! クヴェブリ製法という、ジョージア伝統の製法でつくるワインは、あらゆる料理にも合う、幅の広いワインです。和食にも、よく合うものもありますよ。とにかく、ジョージアのワインは素晴らしい!
第二に、「ワインを飲む文化」もジョージアの魅力のひとつですね。ジョージアのワイン文化の歴史は長いです。そして、日本に茶道があるように、ジョージアには「スプラ」というのがあるんです。茶道って単にお茶を飲んでそれだけで終わりじゃないでしょ?
(歴史、礼節、おもてなしの心…など)様々な要素が凝縮されているのと同じように、「スプラ」もワインに関連した様々な文化が合わさって1つの儀式みたいなものなんです。
第三は、ワインによって繋がる人々の魅力ですね。ワインの美味しさや、ワインの文化によって、人々が繋がって、みんなが特別な思い出をつくってきた。ワインを通して、ジョージアの人たちは密な関係をすぐに築くことできる。これも魅力ですね。特に、ジョージアの人っていうのはおもてなしに長けていますからね。そういう意味ですね、ジョージアでは、ワインを中心に様々な価値が生まれ続けてきたんです。
とにかくジョージア人の暮らしにとって、大切なものは、1にワイン2にワイン、3、4がなくても、5にワインという感じです。ワインそのものはもちろんですが、そこに関わる文化と人にも注目してほしいですね!
筆者: さきほど、ジョージアには、「スプラ」という、日本の茶道のような儀式があるとお話されていましたよね。「スプラ」ってざっくりいうと、どんな内容なんですか?
ダヴィド分析官:では「スプラ」については、私から説明いたしましょう。
ジョージア人にとって、ワインで乾杯をすることは、ただ飲むための集まりではなくて、しっかりとした儀式の形にするのが大事なんです。
まず、スプラで集まる人達は必ず「タマダ」と呼ばれる役割の人を一人、選びます。タマダというのはスプラを仕切る役割を果たす人物です。毎回、飲む前にタマダがスピーチをして、「ガウマルジョス!(乾杯の時に使う『勝利』の意味」と言ってみなさんが飲むわけです。
(筆者:日本でいう、飲み会の“幹事”を、超グレードアップした版かな)
ダヴィド分析官:「タマダ」は良く飲める、良く話せる、知識のある人でないといけません。そして、普段から、周囲の人にとても尊敬されている人じゃないといけないのです。その「タマダ」の振る舞いによって、スプラがよく進むか悪く進むかが左右されますからね。
筆者:うわ~、「タマダ」、責任重大ですね…!
ダヴィド分析官:そうですね、「タマダ」に選ばれた人にとっては、とても光栄でもありながらプレッシャーでもあります。
スプラでは、国の話をしたり平和のために乾杯したり、親戚や家族のためにも乾杯したり、つまりジョージア人にとって大事なことのために、必ず乾杯します。
そして、乾杯をする際には、それらがなぜ我々にとって重要かということを、「タマダ」が中心になってしっかりと説明します。だからこそスプラでは次世代を参加させるという文化も定着しています。つまり、学校で教えられないようなことをスプラで教育しましょう、という役割もタマダは担っているわけです。
もちろん、人と人の間の交流を深めることは、それはどこの国の飲み会も一緒だと思うんですけど、スプラにおいても重要です。あとは、参加者がワインを飲みすぎないように気を配ったりするのも、ワインを楽しむためには必要ですよね。これも、「タマダ」の役割のひとつですね。
筆者:「タマダ」はどのように選ぶんですか?投票のような感じでしょうか?
ダヴィド分析官:「投票」というほどの厳しいものではなく、スプラの主催者が家族で相談して今回はこの人にしましょう、お願いしましょうよ、っていう感じです。そういう意味では民主主義的な儀式だなっていう風に思いますが、ただ、スプラの最中は、「タマダ」は独裁者には変わりますけどね!フフフ…。
筆者:ハハハ…(“ジョージアン・ジョーク”?)
筆者:ジョージアの文化を語る上で、ワインは欠かせないということがとてもよくわかりました!ことしの3月に北海道にいらしたときも、ワイン関連のお仕事をしに?
レジャバ大使:そうです。3日ほどの滞在で、ワインのイベントに登壇したり、様々なワイナリーを視察したりと、全体的に充実した出張でした。
筆者:北海道のワインにはどんな感想を持ちましたか?
レジャバ大使:北海道のワインは、歴史は長くない一方で、どのワイナリーに行っても「北海道でつくるワイン」ということに対して、とても誇りを持っていたのが印象的です。なにか皆さん確固たる信念があるんだな、ワインづくりは、北海道にとって、大切なものなんだな、というふうに感じました。
また、池田町のワイナリーにある“ワイン城”は、ジョージアの有名な建物をモデルにしていたり、岩見沢にあるワイナリー「kondo vineyard」では、ジョージアから持ってきた「クヴェブリ」という素焼きの器を使ってワイン造りをしていたりと、ジョージアとの縁も感じましたね。
筆者:ダヴィドさんはどんな感想を?
ダヴィド分析官:ただ欧米というかヨーロッパの技術を導入してワインを造る、というだけにとどまらず、「北海道らしさ」にもこだわっているのが印象的でしたね。それぞれの現地のブドウや気候に向いたような造り方をしていて、それは味にもしっかりと反映されているのではないかと感じました。
筆者:Twitterを拝見しました。ワイン以外にも北海道の様々なグルメを楽しまれていたようですね。
レジャバ大使:北海道は、食材という意味では「日本一美味しい」というふうに、確信しました。海鮮物もそうだし、ホテルの朝ごはんに出てきた、じゃがいもも、豚肉も、お米も…北海道産!
ダヴィド分析官:それに、ヨーグルトも、ですね。
レジャバ大使:そうだそうだ、ヨーグルト!乳製品もそうですし、あれだけの素晴らしい地元のものが、あれだけ幅広いチョイスがあるのは、他の県にはなかなかない…というのは認めざるを得ないです。……あとは、なんといっても、やっぱり、ラーメン!
(筆者:やっぱり、きたー!ラーメン!)
レジャバ大使:ラーメンはね、とにかく素晴らしい。北海道のラーメンの文化にはほんとうに参りました。札幌市内だけでも各地に名店がある!そして1時間以上も並ばないといけないようなお店もたくさんあって!私はラッキーなことに、出張中、なんとか食べることができたのですが、ほんとうにおいしかったですし、いまでも味を覚えていますね。
筆者:どこのラーメン店に行くべきかを、協議している最中のようすを、ダヴィドさんもTwitterにアップされていましたよね。
ダヴィド分析官:はい。私は大使館の分析官を務めておりますが、一方で、どこのラーメン屋に行くべきか、という分析も行っていますからね!!
(一同笑い)
レジャバ大使:重要なことですよ!あれ(Twitterの投稿)は、大げさにしているのではなくて、せっかく札幌に来たんだから、ちゃんと吟味する必要があるんですから!
ダヴィド分析官:ただ…あれだけの長蛇の行列ができるということは、事前に分析しきれなかった!すごく反省してます…。もう一度、分析をして、札幌に行かないといけないです!
(一同笑い)
筆者:では、最後にひとつだけ、ずっと気になっていたことがあって。
あの、レジャバさんご自身のTwitter、とにかく個性的で面白いじゃないですか!フォロワー数も21万人にいて…失礼ですけど、これって本当に、レジャバさんご本人が投稿しているんですか?
レジャバ大使:はい、私がしています。
筆者:大使館側から「これはNGで!」みたいなものはあるんですか?例えば、エイプリルフールで小島よしおさんとコラボしていたのにもビックリして…そういうこともご自身で?
レジャバ大使:あれはね、本当は、私が小島よしおさんの海パンを借りて、投稿したかったんですけど、それはNGでしたね、海パンは、NGってことで(笑) でも基本的にはなんでも発信してますよ、まあ懲りずにこれからも見てみてください!
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レジャバ大使:最後に、ワインに関してもうひとつ。最近「47ガウマルジョス」という企画を始めました。47都道府県で作られたワインを巡って周る、ジョージア大使による「ワイン外交」と題したものです。だから、なるべくとにかく多くの都道府県を周りたい。今回、北海道で、築き上げることができたネットワークを作って、他の県とも様々な取り組みを深めていきたいなと思っています。
ダヴィド分析官:より多くの日本の皆さんにジョージアの魅力を知って頂いて、ジョージアに来て頂いて現地でワインを楽しんで頂くために、これからも色々と取り組んでいこうと思います。
―レジャバさん、ダヴィドさん、貴重なお話をありがとうございました!北海道にも、ぜひまた、ワインとラーメンを味わいに来てくださいね!
文:ナベ子(Sitakke編集部)
画像引用:レジャバ大使のTwitter 、ダヴィド分析官のTwitter 、PIXTA