2023.02.15

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「我慢しないで」。北海道の女性に伝えたいこと。医療キャスター・松本裕子さんインタビュー

「今日はよろしくお願いします!」と、朗らかな声で取材に応じてくれたのは、松本裕子さん。報道に携わってきたこれまでのキャリアや、母親のがん闘病などを経験し、13年ほど前から“医療キャスター”として活躍しています。これまで100人以上のがん患者を取材し、女性の健康について番組での発信や啓発活動を行う松本さんが、北海道で生きる女性たちに伝えたいこと、とは。
3月8日の「国際女性デー」に先立ち、5日に札幌で開催される「HAPPY WOMAN FESTA 2023 HOKKAIDO」の情報もあわせて、お話を聞きました。

松本裕子/医療キャスター、HAPPY WOMAN実行委員会 北海道支部長
1972年生まれ。函館市出身。キャセイパシフィック航空のCAなどを経て、フリーランスのキャスターに転身。福井テレビ、北海道文化放送のニュースキャスターを15年に渡って務める。医療現場の取材や疾患啓発活動をライフワークとし、医療キャスターという新たなジャンルを確立。毎月第2・4日曜 朝6:15〜UHBで放送中「松本裕子の病を知る」に出演。

大切な人が、がんという病に。そのとき医療キャスターへの道が開く。

——松本さんは、ニュースキャスターとしてだけでなく、現在は“医療キャスター”として活躍されています。医療に特化されたのはどうしてですか?

松本 そもそものきっかけは、2010年でした。当時、私は北海道文化放送(UHB)で夕方のニュース番組のキャスターを務めていたのですが、その頃、母親が卵巣がんになってしまったんです。その時、母はまだ50代。いつも元気な自慢の母が、まさかがんになるなんて、晴天の霹靂でした。ニュースキャスターという仕事をしているのに、恥ずかしながらがんについては何も知らなかったんです。インターネットであれこれ検索しては、不安になって涙で枕を濡らす日々でした。

そんな時、正しい知識を持たなきゃって思ったんです。そしてその知識を、同じように不安になっている人たちに届けたいって。それで、担当していたニュース番組の中で、「がんサポートキャンペーン」というコーナーを企画して、毎月がんについて医師や患者さんに取材したドキュメンタリーを自ら制作し、放送しました。それが大きなきっかけですね。

——取材する中で、がんに対する印象は変わりましたか?

松本 そのコーナーを通して、がんの早期発見、早期治療の大切さを伝え、視聴者のみなさんの健康に結びつけていただこうというのが目標だったのですが、取材を続けてみると「がんと生きるとは、どういうことなのか」「病気と向き合うこととは」というのを考えさせられましたね。その後は、北海道新聞と共同で「がんを防ごう」という企画を受け持ち、がんで亡くなる方を一人でも減らすために…取材を続けました。そこでもまた多くのことを患者さんから教えられました。

UHBニュースで放送していた「がんを防ごう」の取材風景

松本 今は2人に1人ががんになる時代と言われています。これまで100人以上の患者さんを取材してきましたが、13年前と今とでは、患者さんのがんに対する向き合い方も変化しています。がんと共に生きるのがどういうことなのか、考えさせられ続けた13年でした。

——患者さんのがんとの向き合い方は、具体的にどう変わったのですか?

松本 やっぱり医療が進歩している分、治療の選択肢が増えたというのが大きいですね。昔は、お医者さんが治療方針を決めて、患者さんがそれに従うのが普通でしたが、今はがんの治療も手術や放射線治療、薬物療法(抗がん剤)だけでなく、免疫療法やゲノム医療などいろいろありますから、患者さん一人一人に合わせた治療法を選べます。患者さんにとって、治療は受け身ではなく、お医者さんと一緒に組み立てていくような時代になったと思います。

こうした、患者さんが病気と向き合う力を「患者力」って呼ぶのですが、昔は「がん=死」というイメージだったのが、医療の進歩と患者力の向上によって、がんは完治できる病気になってきました。がんになったら死を考えるのではなく、「がんに打ち克ち、がんと生きるにはどうしたら良いのか」、患者さんに寄り添いながら、取材を通して学びました。

最新医療を自ら体験して取材する松本さん

——がんから始まり、今では幅広い病気に取材対象を広げています。どういうきっかけだったのですか?

松本 テレビや疾患啓発活動を通して、さまざまな医療従事者に取材をしてきました。その中で、お医者さんたちから「がんだけでなく、他の病気の啓蒙にも、取材力や発信力を生かしてほしい」というお話をいただくようになったんです。病気について正しい知識を持っていただく、そのお手伝いができればと思い、5年くらい前から糖尿病や認知症、関節リウマチ、ALSなど、生活習慣病から希少な難病まで、あらゆる病気について取材するようになりました。そこから「病を知る」という番組が誕生し、「医療キャスター」という私の使命を少しずつ、皆さんに知っていただける様になりました。

「知られていないことの真実を伝えたい」が、原点。

——そもそも松本さんは、何かを伝える仕事がしたくてキャスターになったのですか?

松本 キャスターとかアナウンサーになる前は、外資系エアラインのCAとして世界42カ国を飛んでいたんです。そうすると、行く先々で文化の違いを目の当たりにするわけです。テレビやラジオや雑誌では伝えきれない、世界各地の本当の姿みたいなものにふれて、そういうことを人に伝える仕事がしたいなって。
世の中、情報は溢れていますが、案外本当のことって伝えられていないもの(笑)。やっぱり生身の人間が足を運んで取材して、そこで見た物、感じたことを伝えられたらって思うようになりました。

それでCAを辞めて、福井テレビに入社したんです。番組を作るディレクターになれたらと思ったのですが、結局、そこでアナウンサーとして番組制作から取材まで一通りのことは経験しました。そのキャリアを生かして、故郷孝行がしたくて北海道のテレビ局に転職したんです。今は、医師や患者さんから聞いたことを、医療キャスターという代弁者として世の中に伝えていきたいと思っています。

——医療キャスターとして、北海道の女性たちに伝えたいことはありますか?

松本 幅広く医療取材する中でも、女性の健康については特に関心が深く、私のライフワークの基本になっています。北海道の女性は全国的に見ても、がんの罹患率や死亡率が高いのが気になるところですね。原因はいろいろあると思います。喫煙率が高いこと、共働きが多く女性もストレスを抱えやすいとか、広い北海道は医療過疎地域が多くて病院に行きたくても近くになく、病気の発見が遅れてしまうとか。男女ともに検診受診率が低いことも一因かもしれません。

この13年間、北海道の女性の患者さんを取材してきて思うのは、みなさんとても我慢強いということ。「どうして、もっと早く病院に行かなかったんですか?」という質問をすると、「このくらいの痛みなんて」とか「産後のホルモンバランスの乱れかなと思って」とか「仕事も子育ても忙しくて、病院に行っている暇がない」「みんなこれくらい我慢してる」といった声が返ってきました。

北海道の女性って、すごく我慢強くて、家庭とか仕事に比べて自分のことは後回しにしちゃいがちなんだと思います。でも、病気は早めに見つけて、早めに治療するのが何より大切。患者さんの取材をしていく中で、お会いした1週間後に亡くなってしまった方や、何人もの患者さんが私に言葉を残して旅立って行かれるのを見てきました。そうしたみなさんの思いを、私は伝えていかなくてはと思って活動しています。

ですから、北海道の女性に言いたいのは、「どうか我慢しないでください」ということですね。ちょっとおかしいなと思ったら、すぐに受診し自分をメンテナンスしてあげてください。

——仕事や子育てをしていると、自分のことは後回しにしちゃいますよね。定期検診も大切ですね。

松本 そうなんです。とはいえ、私も我慢していた女性の一人だったんですよ(笑)。

一昨年、頻繁に動悸がしたり、突然汗が吹き出したりということが起きて。でも、「単なる自律神経の乱れだろう」ってやり過ごしていたら、番組収録中に大変なことになっちゃって。それで思い切って婦人科を受診してみたら、「もしかすると、年齢的なことかもしれない」と言われて、ホルモン補充治療をしたところ、嘘みたいに良くなりました。
その時、「あ、私も我慢しちゃってたんだ。みんなこうやって我慢してるんだ」って、恥ずかしながら初めて気づかされましたね。

北海道から新たに始まる“女性の健康革命”

国際女性デーのシンボルフラワー、ミモザとともに

——松本さんが北海道支部長を務める、HAPPY WOMANも気になるところですが、どういった活動をしているのですか?

松本 東京に拠点がある一般社団法人HAPPY WOMANは、2017年から活動する組織で、3月8日の国際女性デーの啓発活動をはじめジェンダー平等や女性が幸せにイキイキと活動できる社会の実現を目指しています。その存在は以前から知っていたのですが、私も医療キャスターとして「女性の健康支援」ができたらと思い、問い合わせをしたところ、北海道にはまだ拠点がなかったということで、この度、北海道支部長を仰せつかったというわけです。
私が目指すプロジェクトはスタートしたばかりで、これからですが、そのキックオフとなるイベントが3月5日に開催する「HAPPY WOMAN FESTA 2023 HOKKAIDO」です。

——どんなイベントなんですか?
芸人のバービーさんやミュージシャンの野宮真貴さん、専門医など女性のパネラーを招いて、生理や更年期といった女性特有の体の悩みや健康問題についてトークを展開するイベントです。私は進行役を務めさせていただきます。
生理とか更年期って、女性にとってすごく大切なことなのですが、なかなか人に話しづらかったり、一人で悩みを抱えてしまったりするケースが多いんですね。だからこそ、一緒に語って、一緒に考えて、情報を共有できたらと思います。女性だけでなく、旦那さんや彼氏など、男性にも参加していただき、互いに理解を深めてもらえたらうれしいですね。

——生理も更年期も、誰もが通る道。でもなかなか正しく知ることって難しいですよね。すごく興味深いイベントです。

松本 ありがとうございます。今回は100人規模のイベントですが、オンラインでも視聴できるので、ぜひ、たくさんの方々にご参加いただきたいですね。

——HAPPY WOMANの活動も含めて、医療キャスターとしての松本さん、今後はどのような活動を展開されるのでしょうか?

松本 このイベントをきっかけに、北海道から“女性の健康革命”をスタートさせたいと思っています!
例えば企業に薬剤師さんとかお医者さんを派遣して、生理や更年期について勉強会を開くとか。生理休暇があっても、それを男性上司に申請するのってなかなかハードルが高いと感じている人も多くて、やむを得ず有給休暇を使っている人もいます。更年期で体調が優れなくても休むわけにはいかず、結局、キャリアを諦めて退職するという女性もいるくらい。男性女性に関わらず、生理や更年期への理解が進めば、より女性が活躍できる社会になるのではと思い、みなさんと一緒に勉強する機会を設けて行けたらなって考えているんです。

それから、これは大きな夢なのですが、いろいろな病気を抱える人もそうでない人も集まって、話したり情報共有をしたり、ただくつろいだりできる、そんな拠点をつくりたいと思っています。そこには医療に携わる人もいて、誰もが気軽に病気や健康について相談できる、そんな空間を創出するのが最終目標なんです。

——松本さんの活動や夢、すごく素敵です。今日はありがとうございました。

Sitakke編集部

Sitakke編集部やパートナークリエイターによる独自記事をお届け。日常生活のお役立ち情報から、ホッと一息つきたいときのコラム記事など、北海道の女性の暮らしにそっと寄り添う情報をお届けできたらと思っています。

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