円山動物園にアジアゾウ4頭が来園して、4年が経ちました。
若いメス・パールのおなかには、新しい命が宿っています。
道内の動物園のゾウの飼育の歴史の中で、初めての出産。
これから待ち受ける出産はどんなものになるのか…
⇒【前編:ゾウの赤ちゃん、もうすぐ!北海道の歴史上初めての出産へ/札幌・円山動物園】
ことし産まれたばかりの赤ちゃんがいる“先輩”動物園に、その未来図を見に行きました。
生後5か月のアジアゾウ「うらら」。
名古屋市の東山動物園で産まれた、2頭目の赤ちゃんです。
うららを気にかけ、寄り添うさくらは、東山動物園初の出産で生まれたお姉さんゾウ。
1度目のさくらの出産のときに心がけたのは、メス同士の助け合い、「群れで育てる」ことでした。
茶谷公一副園長は、当時の取材で「陣痛で苦しんでいるときも先輩ゾウと鼻を絡ませていた。おそらく苦しいってときに先輩ゾウを頼って、先輩ゾウが大丈夫だよって慰めることをやっていたので、ずいぶんメンタル的にはアヌラは助かっていたと思う」と教えてくれました。
そうして、無事、さくらを育ててきたお母さんのアヌラ。
2回目、うららを妊娠したときは、「ゾウの出産子育てをさくらに覚えさせなきゃいけないという使命があった」といいます。
2度目という経験を活かし、準備は万全、その日を待っていました。
しかし、思わぬことが起こります。
飼育員の辻信義さんは、「陣痛がはっきりわからない。予兆というかきざしに気づけず、突然でした」と振り返ります。
アヌラが急に出産。
本来、柵越しの隣の部屋でお母さんの出産を見守るはずだったさくらは、同じ部屋で出産を目の当たりにし、突然生まれ落ちた妹に驚きます。
それでも、「正直、いいほうの想定外」だったそう。
アヌラも、そしてさくらも、そこからは落ち着いていました。
獣医師の佐藤康弘さんは、さくらの様子について、「すごく赤ちゃん思いで一緒にお母さんと一緒に子育てに参加している」と話します。
生まれた「うらら」は、出生体重推定130キロ。
柵を通りぬけてしまう姿は小さく見えますが、大人二人でようやく押し返すことができるくらい、やっぱりゾウは強くて大きいのがわかります。
母と姉に囲まれ、産まれて5か月で、体重は345キロに。
走り、遊び、母と姉を行ったり来たり。
間に挟まれて安心できるときは、お客さんの前でも、寝てしまうことも。
砂山にコテリと横たわりました。
今もすくすく育っています。
うららに続く、16例目の出産となる、札幌の円山動物園のパール。
早ければ4か月後には、その日を迎えます。
名古屋の動物園で、先輩ゾウが出産を支えてくれたように…そして後輩ゾウが次に命をつなぐための教訓になれるように…
円山動物園の飼育員・小林真也さんは、「出産経験のあるシュティンとか、出産するかもしれないニャインが近くで見られるような工夫もできればしてあげたい」と話していました。
そしてパールの出産は、実は全国で「初」の出産でもあります。
それが「準間接飼育」での出産であることです。
「準間接飼育」とは、人間がゾウの檻に入らずに飼育管理をする方法で、ゾウにストレスがかからず、人間も安全を確保できるのが特徴です。
足に鎖を巻いたり、血液検査の針を刺すのも、檻越しにゾウに「協力」してもらって行います。
これまでの国内での出産は名古屋の東山動物園も含め、檻の中に人間も入る「直接飼育」が基本。
円山動物園での出産は今までとはまったく違う形、まさに「全国初」になるのです。
そのため、「準間接飼育」を多く採用している欧米の動物園などからも情報収集をしてその日に備えています。
飼育員の小林真也さんは「まだまだ手探りの状態だが、準間接飼育はこれからの国内のゾウ飼育でも主流になっていくと思うので、出産のパイオニアになれれば」と話しています。
パールの出産は早くて来年3月末ごろ、最も遅くて再来年1月ごろの予定です。
文:HBC報道部
※掲載の内容は「今日ドキッ!」放送時(2022年11月30日)の情報に基づきます。