2022.11.06

暮らす

『天気の子』の気象監修を担当した”雲研究者”が語る「雲って人間みたいなところがあるんですよ」

みなさんは、新海誠監督のアニメ映画『天気の子』を観たことはありますか?
まるで実写のような美しい空の描写が見どころの一つですが、実は雲研究者の荒木健太郎さんが気象監修をされているんです!

Sitakke編集部では、本人役で声優の出演もされている荒木さんにインタビューを実施。雲への思いに始まり、『天気の子』の裏話や北海道の気象の魅力など、たっぷりとアレコレお話をうかがいました。

<Profile>1984年生まれ、茨城県出身。気象庁気象研究所の主任研究官として、防災・減災を目的に、豪雨・豪雪をもたらす雲の仕組み、雲の物理学の研究に取り組んでいる。映画『天気の子』(新海誠監督)気象監修。MBS/TBS系『情熱大陸』などメディア出演多数。著書に『すごすぎる天気の図鑑』、『世界でいちばん素敵な雲の教室』、『雲を愛する技術』など。

雲研究者・荒木健太郎さんに聞いた「雲の魅力」とは

雲は「人間みたいなところ」がある?

−「天気の子」のお話はこのあとじっくり聞かせて頂くとして…荒木さんといえば『すごすぎる天気の図鑑』(KADOKAWA)が子どもたちに大人気ですよね。 かわいいキャラがいっぱい登場して、空のことがよくわかります!

ありがとうございます。空気のかたまりや雲、水蒸気などをキャラクターに見立てて説明しました。多くの方に楽しんでもらい、空や雲に興味を持ってもらえて嬉しいです。

実際、雲は人間みたいなところがあるんですよ。例えば積乱雲。ちなみに、積乱雲ってどんなイメージをお持ちですか?

「積乱雲」『すごすぎる天気の図鑑』(荒木健太郎/KADOKAWA)

−黒っぽくて強い雨を降らせる雲ですよね? なんとなく怖いイメージがあります。

実は、”彼”は結構自虐的なんです(笑)

最初は周りに持ち上げられて調子に乗って「イエーイ!」と舞い上がっちゃう。でも次第に気持ちが下がってきて「やっぱりオレはだめかも…」と負の気持ちに支配されていき、「もうダメだー!」と大粒の涙=土砂降りの大雨を降らせてしまう。こうやって「人間」的に考えると、ちょっと見る目が変わってきませんか?

『すごすぎる天気の図鑑』(荒木健太郎/KADOKAWA)

『天気の子』の気象監修は、新海監督から直々のオファー

−雲を「人間」的に見たことなかったので、とっても新鮮です……!積乱雲のことも、なんだかかわいく見えきますね(笑)

きっと『天気の子』の映像にリアリティを感じるのも、それだけ”雲愛”が溢れる荒木さんが関わっていたからですね。気象監修をされたきっかけはなんだったのでしょうか?

私が書いた『雲の中では何が起こっているか』(ベレ出版)という本を、たまたま新海監督が読んでくださったことがきっかけでお声がけいただきました。

−気象監修って具体的にはどんなことをされたのでしょうか?

雲が広がっているシーンならこんな表現にしましょうとか、この雲があるならこの雲も描いた方が現実的ですといったことをアドバイスしました。
エンターテインメントの世界なので、気象学的にあり得ない描写をすることもあるのですが、科学的な整合性を取れる部分は取っていくというスタンスでした。

また、「天使の梯子」と呼ばれる、雲の隙間からさす光が作中にたくさん出てくるのですが、時間帯によって色が変わるんですよ。お昼に近く太陽が高い時は白っぽい色ですが、夕方近くになると夕焼けと同じメカニズムで暖色系に変わっていく、ということを作中でも忠実に表現しています。

お昼に近い時間(左)と夕方(右)の「天使の梯子」。『すごすぎる天気の図鑑』(荒木健太郎/KADOKAWA)より

天気用語など気象情報を扱うシーンもかなり細かく監修しました。作中で登場する天気図も僕が書いて「こういう風にしてください」とお願いしました。

−リアリティを追求したんですね。反響もありましたか?

ありましたね。特に嬉しかったのは、映画がきっかけで気象予報士をめざし、見事合格したという方が何人もいらっしゃったことです。

私が気象の仕事に広く関わるのは、多くの方が気象に興味を持つことで防災に役立てばという思いがあるから。そればかりではなく一緒に気象の仕事をできる仲間が増えるきっかけになったことには、やった甲斐があったなと感じました。

インタビュー時の荒木さん。雲について語るときの目がキラキラしている。

−荒木さんご自身は子どもの頃から雲や天気に興味を持っていたのですか?

実を言うと、雲が好きになったのはここ10年くらいなんです。

大学も最初は経済学部に入学しました。数学が好きで、数学を使って身近なことに役立つ研究をしたいと思ったんですが、やりたいことのできる研究室との出会いがなくて。

結局1年で中退して、気象学なら数学もどっぷり使って生活に深く関わるだろうと、気象庁の機関である気象大学校に進みました。ただ、研究職に就いた後も雲はあくまで研究対象として淡々と向き合っていました。

転機になったのが、2014年に一般の方向けの本を書いたことです。わかりやすく解説するために『すごすぎる天気の図鑑』のように雲をキャラクター化することに決めて、雲の気持ちになっていろんなことを考えたんですよ。そうしたら…いつのまにか好きになってしまいました(笑)

雲の写真も撮るようになりましたし、雲を「彼」とか「この人」と呼びたくなるようになったんです。

荒木さんから見た、北海道の気象の魅力は?

−荒木さんから見て、北海道の気象はどんなところが魅力的でしょうか?

四季の振り幅が大きく、気象のバリエーションが豊かなところですね。中でも冬が魅力的です。マイナス10℃くらいまで下がると空気中に細氷という氷の結晶が発生して、太陽光や街明かりでキラキラ光るのを見たことありませんか? ダイヤモンドダストです。美しいですよね。

あと、これも見てください。

『もっとすごすぎる天気の図鑑』(荒木健太郎/KADOKAWA)より

−室蘭の白鳥大橋ですか? 橋から空に向かって光が延びていてキレイですね!

ですよね! ライトピラーもしくは光柱(こうちゅう)と呼ばれるのですが、これも空中の細氷に光が反射しているんです。幻想的な光景で、何かが降臨しそうというワクワク感もあります。

あと、これからの時期、北海道は低い空に雲が出ることが多くて、雲の隙間から天使の梯子が見えるなど、キレイな空に出会いやすいです。

−いろいろ教えてくださり、ありがとうございます! でも、もっと雲の魅力について聞きたいです。

ぜひ、お話させてください!

***

ということで、次回は、HBC「今日ドキッ!」などで活躍する星井さき気象予報士と対談し、雲の魅力について存分に語っていただきます! お楽しみに!

文:にの瀬
編集:nabe(Siatkke編集部)
協力:HBCウェザーセンター

取材日:2022年10月

Sitakke編集部

Sitakke編集部やパートナークリエイターによる独自記事をお届け。日常生活のお役立ち情報から、ホッと一息つきたいときのコラム記事など、北海道の女性の暮らしにそっと寄り添う情報をお届けできたらと思っています。

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