今も昔も、周囲の大人を困惑させ、戸惑わせる時期。それが思春期です。
周囲も戸惑うのですが、実は本人たちも困っています。自分たち自身も、どうしてこんな風にもやもや、イライラするのか、わからない。
だからこそ辛いのです。だからこそ一番身近な大人である親にきつくあたるのです。
今日は公認心理師である筆者が、思春期のお子さんとの接し方に悩む親御さんの心が少し楽になるようなヒントをご紹介します。
あなたも、思春期だったことがあるはずです。当時のこと、覚えていますか?
なんとなくイライラして、もやもや。
親も先生も自分のことなんてわかってくれない。
そんな風に思っていた時期はありませんか?
「自分が何者であるか」というアイデンティティを確立することが思春期の心理的発達課題となるわけなのですが、このアイデンティティの獲得がなかなかに大変なのです。
よくわからないことに対して、人は不安を感じます。そして不安な状態が続くことでイライラが生じてきます。
新型コロナウィルスが出始めたとき、あまりにもわからないことが多くて、人々は非常に大きな不安を感じました。その後、思うように正体が見えてこないことによって不安は長期化し、イライラし始める人が増えていきました。
その「わからない」対象が自分になるわけです。
自分のことがわからない。
こんなに不安なことはありません。でもその不安に向き合って、人はアイデンティティを獲得していきます。その過程で、身近な人にその不安やイライラをぶつけてしまう。それが思春期の大きな特徴です。
思春期の心理的特性が少し伝わったでしょうか?
「そんなに大変なのか…」「自分もそうだったかな」と思われたでしょうか?
でも、大変なのは思春期の本人だけではありません。周囲の人、特に親は本当に大変です。
勉強が思うように進まない。
友達と喧嘩した。
部活で嫌なことがあった。
親はどうしたらいいのでしょう? 子どもが困った状況を話してくれた時はまだよいのです。そういう時は、「そうだったんだね」とただ聞きましょう。
「こうしたらいいんじゃない?」とアドバイスしたり、「あなたのここが悪かったんじゃない?」と指導したりすることはさけましょう。「私もそう思うよ」と言う必要はありません。「あなたはそうだったんだね、そう感じたんだね」で終わりましょう。意見を聞かれたら、「お母さんはこう思うよ」と伝えることは良いと思います。
子どもが困った状況を話してくれないけれど、なんだかイライラしている時の方がしんどいでしょう。そういう時は、無理に聞き出すことはやめましょう。
親は「自分が何かしたのだろうか?」と不安になります。そして、自分を不安にさせている子どもに対してイライラしてきます。そうなるとお互いにイライラして喧嘩になって、傷つけあってしまいます。こういう状況は患者さんからもよくうかがいます。
この時に思い出して欲しいのは、思春期の子どもは親が何をしても、しなくてもイライラするということです。
自分が悪いのかもしれないと思うと不安になりますし、その状況が長引けば、原因を作った子どもに対して腹が立ってきます。なんとかしてあげたいのに何をしてあげればいいのかわからない無力感も親を追い詰めます。そして「いい加減にしなさい、何が不満なの!?」と子どもを責めてしまいます。
ひきがねになったのは親の言動かもしれませんが、親が悪いわけではありません。思春期の子どもは、まだ感情の処理能力が成長しきっていないので、多くの情緒的刺激をキャッチするにもかかわらず、処理が追い付いていない状態なのです。
だから少し時間をあげてください。あなたがなんとかしなくてはと焦る必要はありません。
距離をとって見守りましょう。ただ放置するのではないのですよ。
もし話したいことや相談したいことがあったら、いつでもここにいるからねということは時々伝えてあげてくさい。
思春期は子どもにとっても親にとっても大変な時期。自分が何者なのかを作り上げていく大きな関門なのです。そのことを理解し、親自身が自分を思い詰めず、楽しく生きる姿を見せましょう。
大人になったら大変なことばかりと思われてしまっては、子どもは苦しい時期を乗り切って、生きていこうと思えなくなってしまいます。「大人っていいなぁ~」と子どもが思えるように、自分が楽しむ姿を子どもに見せてあげるように。
思春期の子どもに巻き込まれすぎずに、自分の人生を楽しんでください。きちんと見守っているよというメッセージさえ伝えておけば、きっと、お子さんが困った時には訴えてきます。
訴えを受け止める時に疲れ切っていては困ります。その時のためにも、あなた自身が日々を楽しく過ごしてくださいね。
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文:竹原久美子(公認心理師/婦人科クリニック勤務)
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【ライター:竹原久美子 PROFILE】
中学時代、寄り添ってくれる人の大切さを感じ、心に寄り添う仕事につくことを決める。
「人生の始まる現場で学びたい」と産婦人科での実習を希望し、そのまま、産婦人科で女性の心に寄り添い続けてもうすぐ20年。
土地柄を肌で知っていることは心の理解にも役立つという想いで、地元札幌で臨床に携わり続けている。
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