2022.08.19

暮らす

【札幌】住所非公開、森の中のレストラン。とっておきの場所で「クマ活」

小川のせせらぎと、さわやかなみどりが心地いい、とっておきの空間。

札幌の森の中にある、アウトドアレストランです。

「mountainman(マウンテンマン)」。住所は非公開です。

ホームページに書かれた、暗号=「42°59'13.9"N 141°21'38.6"E」をヒントに、探した人だけがたどり着けます。

険しい山道を登る必要はありません。車でも、地下鉄の駅から歩いても、ちょっとした冒険で見つけられます。

平日は午前11時から、土日祝日は午前8時半からの営業。
早起きして訪れ、さわやかな空気を吸い込めば、特別な一日のスタートです。

朝ごはんやブランチにいただく、新鮮な野菜と焼き立てのハンバーグ。

そのおいしさに笑みをこぼすのが…この日のゲスト。村上晴花(むらかみ・はるか)さん。知床からやってきました。

彼女とのやりとりからも、「mountainman」の魅力が垣間見えます。

【この記事の内容】
・クマ対策というより、生活の話
・クマ対策からも見つかった、「mountainman」の価値

対策というより、生活へ

村上さんは、知床でホテルを営む「北こぶしリゾート」の社員で、「クマ活」を担当しています。

「クマ活」は、ワークショップでクマについて一緒に考えたり、クマが住宅地に入らないように草刈りやゴミ拾いをしたりする活動です。「北こぶしリゾート」がおととし創業60周年を迎え、「地域への恩返し」として始めました。

(草刈りは、クマと人がお互いに気づかずに近づかないよう、森と住宅地との境界線を作る対策。ゴミ拾いは、おいしいにおいや味でクマを引き寄せないようにするための対策)

この日は、初めての知床を飛び出しての「クマ活」。

知床での「クマ活」に参加した「mountainman」のアートディレクター・メアラシケンイチさんが声をかけ、実現しました。

「mountainman」でクマの気配を感じたことはまったくないにもかかわらず、これからも出ないようにと、前もっての対策に乗り出したのです。

中央に立っているのがメアラシさん

参加したのは、「mountainman」の裏山の保護などに関わっている「URAYAMA PROJECTのメンバーや、「クマとまちづくり」プロジェクトのメンバー。「クマとまちづくり」プロジェクトには、酪農学園大学の佐藤喜和教授や、クマ対策に関心のある大学生、札幌市、HBCが参加しています。

森の中にありながら、クマが出たことがない「mountainman」。特別な対策はしていないといいますが、見渡してみると…

暑い日も、みどりの傘が日光をおさえ、涼やかな風を感じる

自然の中にいながらも見通しはよく、ゴミも落ちていません。レストランにゴミが落ちていないのは当たり前…と思うかもしれませんが、実は、その当たり前の積みかさねが、とても大切なのです。

北海学園大学の宗廣(むねひろ)みことさんが、クマ対策で「住民にできることはありますか」と質問すると、村上さんは、「丁寧に日々を暮らすこと」が大事だと話しました。

「ゴミをただただきれいに、時間通りに捨ててほしい。クマ対策…というか、クマを意識した生活になるのは誰でもできると思う」

左が宗廣さん、右が村上さん

「クマ活」では、“活動”として「やるぞー!」と意気込むゴミ拾いや草刈り。それはきっかけであり、日常へと続いています。

「山の中でクマに会うのと、コンビニの前でクマに会うのは、許容度が違うと思う。ここはクマ優先ゾーンなのか、人優先ゾーンなのか、その場所に住む人や利用する人みんなが認識することが大事

「どんな場所にしたいか」

村上さんは、知床での「クマ活」からメアラシさんがメッセージを汲み取り、札幌に持ち帰ったことを嬉しいと話していました。

「mountainman」を、どんな場所にしたいか。

レストランスペースから裏山の間には農園がありますが、メアラシさんは「電気柵はあえてしていません。人工的な農園になっちゃうから」と話します。「クマが出たらさすがに電気柵つけようとなっちゃうんだけど、そうならないようになんとかしたい」

そこで選んだ手段が、草刈りです。

農園の奥にある裏山へ

みどりはこの場所の大切な魅力なので、もちろん、すべての草を刈ったりはしません。刈ることにしたのは、裏山と農園の間、2メートルほどの幅の道。

「草刈りして、ここから人とクマの境目だよっていうのをこっちで決めたい」というメアラシさん。10人ほどで取り組むと、あっという間に、境界線ができました。

右側が裏山、左側が農園に続く。中央に境界線ができたが、すべてのみどりは失われていない

道内でクマ対策への関心が高まり、町内会や学校が主催する草刈りは年々広がっているように感じます。でも、私はこの草刈りに、新しい感動を覚えていました。

クマが出没すると、その地域に住む人に率直な思いを聞きに行きます。住民は「こわい」「こんな対策をしてほしい」などとカメラの前で答えてくれますが、飲食店など、人を呼びたい店は、クマの話題を避けるところが多かったのです。「この店の近くにはクマが出る」というイメージを持たれたくないという理由でした。

クマの取材を断る店が悪いわけではありません。そのときのニュースが「クマ出没=課題」として取り上げていて、店に悪いイメージがつくのではと思ったからで、それも店の価値を守るための判断でした。

ただ、その中で「mountainman」が、クマが出る前に自ら対策に乗り出し、さらにその様子の撮影を快く受け入れてくれたことは、「クマ対策に向き合う」ことが、「店の価値になる」ことに気づかせてくれました。「クマ活」という前向きな活動として、“クマが出る前”に先手を打つ、という新たな価値の守り方が見つかったのです。

森の中のレストランの魅力と、お客さんの安全を両立しようとする「mountainman」の姿には、クマ対策さえ“楽しむ”ような、かっこよさを感じます。

「これでますますクマが出なくなるでしょう!」と言うメアラシさんに、村上さんは弾む声で「はい!ますます!」と答えます。その二人の明るい声に、全員で達成感を共有できるのが、「クマ活」の楽しいところ。

北海学園大学の宗廣さんは、「いろんな立場の人とクマについて話す機会が持てたのがまずよかったです。クマについてまず考えることが大事だと思う」と話しました。これからの「クマとまちづくり」プロジェクトで、「クマに興味がない人が興味を持つきっかけをちょっとでも作れるように、楽しい活動をできたら」と意気込みます。

村上さんが知床で始めた「クマ活」を、メアラシさんが札幌で実践し、それをきっかけに宗廣さんが考える…。

「クマ活」の輪が、広がり始めています。

***
mountainman
・住所非公開(ヒント:42°59'13.9"N 141°21'38.6"E)
・定休日:月曜、火曜(祝日の場合は振りかえ)
・営業時間:平日は午前11時~午後3時/午後5時~9時、土日祝日は午前8時半から午後3時/午後5時から午後9時
※夜は前日までの予約制
・インスタグラム:
mountainman_sapporo

テントサウナもあり、森の中でととのうこともできる

***

連載「クマさん、ここまでよ

文:Sitakke編集部IKU
2018年HBC入社、報道部に配属。その夏、島牧村の住宅地にクマが出没した騒動をきっかけに、クマを主軸に取材を続ける。去年夏、Sitakke編集部に異動。ニュースに詰まった「暮らしのヒント」にフォーカスした情報を中心に発信しています

Sitakke編集部

Sitakke編集部やパートナークリエイターによる独自記事をお届け。日常生活のお役立ち情報から、ホッと一息つきたいときのコラム記事など、北海道の女性の暮らしにそっと寄り添う情報をお届けできたらと思っています。

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