2022.08.02

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「北海道で最も忙しい交番」に、はじめて女性警察官が配属。その理由とは?

札幌の巨大歓楽街・ススキノ。

その治安を守っているのが、「薄野交番」です。

東京の新宿・歌舞伎町交番に次ぐ、全国2番目の規模の大きさ…およそ4000軒の飲食店がひしめくエリアを管轄しています。ススキノ観光協会によると、このマチの夜の人口は、8万人にのぼります。

そんな「北海道で最も忙しい交番」とも言われる職場に、この春、初めて6人の女性警察官が配属されました。その背景には、ススキノで時代の流れに沿って生まれた、ある需要が関係していました。

「新人の気持ちで」

薄野交番に1本の通報が入ります。

「もめごとが事件に発展しそうだ」

1人の女性警察官が現場に走り出します。

渡部晴美(わたなべ・はるみ)巡査部長です。18年目のベテラン警察官で、ことし4月、薄野交番に初めて配属された6人の女性警察官のひとりです。

同僚の男性によると、渡部巡査部長は「どんな小さな悩みでも相談したら全部聞いてくれて、とても頼りになる存在だ」といいます。

しかし、交番勤務は12年ぶり。新人の気持ちで取り組みたいと意気込みます。

渡部巡査部長の、ある日の当直勤務に密着しました。

相次ぐ通報…

当直勤務では、24時間続けて働きます。

この日は、出勤からわずか1時間後…飲食店ビルで火災が発生したとの通報が入ります。

渡部巡査部長は現場へと走り、建物の周りを確認します。

火災現象はなし。

害虫駆除の業者が、立ち入ったところ、操作ミスでアラームがなったとのことでした。

交番に戻ると、ススキノで店を経営しているという人が、忘れ物を届けに訪れました。女性警察官が配属されたことについて訊ねると、「うちの店は女性客が多いので、女性客の対応で女性の警察官がいると、すごい助かります」と話していました。

正午すぎ。この日のランチは、カップ麺です。合わせて食べる野菜は、激務を支える身体への心遣い。幼い頃から大好きなミニトマトを、当直のたびに、欠かさず食べているといいます。

30分ほどでランチを終えると、次は道案内!新千歳空港行きのバス停はどこにあるのか尋ねに来た人がいました。

ゆっくりする時間は、なかなかありません。

変わりゆくススキノ

こちらは、1967年に撮影された薄野交番、そしてススキノの様子です。

薄野交番が設置されたのは、1880年。伊藤博文が総理大臣になる、5年も前の話です。以来、北海道の移り変わりを見つめてきました。

夜になると、表情がガラリと変わるススキノ。交番もさらに慌ただしくなります。

午後9時すぎ、「事故があって、けが人がいる」という通報が。

現場へと走ると、救急車の中に、40代の男性がいて、近くには、自転車がありました。

男性は焼肉店で酒を飲んだ後に自転車に乗っていて、途中でハンドル操作を誤って縁石にぶつかり、記憶を失ったといいます。

自転車でも「酒酔い運転」をすると「5年以下の懲役または100万円以下の罰金」が科されることも。男性は厳重注意を受け、歩いて自宅に帰りました。

また、渡部巡査部長が走り出しました。交番にはパトカーもありますが、ススキノでは走って現場に向かうほうが早いことも多いといいます。

建物の影に集まる警察官。渡部巡査部長は、泣いている女性に話しかけました。

女性は、駅のエスカレーターで、スマートフォンでスカートの中を盗撮されたといいます。

渡部巡査部長は、「女性が被害者だと、私がメインで行くことが多く、警察官が女性でよかったといわれることもある」と話します。

コロナ禍に入ってから、さらに「若者」が目立つようになったススキノ。被害も増えつつあります。

夜が明けて、午前6時。

渡部巡査部長は、パトカーに乗り込みます。

ススキノの裏路地でうなだれている20代の男性。

ススキノで酒を飲み、タクシーを拾おうとしましたが、歩道で寝てしまったそう。3万円以上の現金を抜き取られたといいます。

男性は酒に酔っていたため、日を改めてから、交番に被害届を提出しました。

慌ただしい当直勤務。仮眠をとれる日は、ほとんどありません。

渡部巡査部長は20年近く柔道をやっていて、体力には自信がありますが、薄野交番の勤務は「事件がかなり多く過酷」だといいます。

それでも、「男女問わず、皆さんが安心して暮らせる、遊べるマチであればいいなと思いますし、そういうふうに仕事をしたい」と話していました。

現在、道内の交番は314か所。このうち、24時間警察官がいるのは、薄野交番だけです。

その過酷な現場に、女性警察官が配属されたのは、女性の社会進出も関係しています。気軽にススキノを訪れる若者が増える中で、この日の盗撮のように、女性が関係する事件も増えました。

特に被害者には「同性に話す安心感がある」という人も多く、迅速に対応するために、女性警察官が必要とされるようになったのです。この春に薄野交番は新庁舎となり、仮眠室などの設備も整ったため、ついに配属されました。

被害者のケア、支援にも取り組む警察にとって、女性の力が必要とされる場面は、今後も増えていきそうです。

文:HBC報道部

Sitakke編集部

Sitakke編集部やパートナークリエイターによる独自記事をお届け。日常生活のお役立ち情報から、ホッと一息つきたいときのコラム記事など、北海道の女性の暮らしにそっと寄り添う情報をお届けできたらと思っています。

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