ときは1980年。場所は本町のど真ん中、当時あった酒まんじゅう屋の隣で上下5坪・計10坪の2階建ての店が『銅鍋』のスタート地点だった。その頃珍しかった『茹で上げ・自家製麺スパゲティの店』はたちまち流行り、すぐに昼夜忙しい人気店となる。少しして、すぐそばで経営していた『カフェ・ド・ベール』の場所へ移り、トータルで30年、本町を拠点とする。
店の看板はスパゲティだから、イタリアン。そう解釈されがちだが、マスター・佐々木秀夫さんの料理はフレンチが起点。大阪の辻学園日本調理師学校でフレンチを学び、東京や京都で修業、フランスへの留学経験もある。自家製麺の技術はそうした修業時代に学んだもので、その後函館へ戻って「まずは、」のつもりでスパゲティ屋を開いたという。「フレンチと違ってスパゲティなら皿・釜さえあればできるから。若くて資金がなかったから、まずはスパゲティ専門に絞ったんだ。ただ、当時から予約制でフランス料理もやっていて、そのうち昼にスパゲティ、夜はフレンチのコースっていう方向になっていったね」。
美原1丁目に移るのは2010年。スパゲティとフレンチの両輪で、ランチとディナーの両方で、変わらずお客を楽しませていたが、その後、共に働いてきたスタッフの退職や自身の胃がん手術といった大きな節目を経て、数年前からディナーのみの営業にシフト。
「今はもう年金をもらう歳だし人を雇わなくなったから、自分のペースで好きなようにやってるんだよ」と話すマスター。その言葉は、彼の味の虜となった古くからの常連とひっそり蜜月を過ごしている、という意味が濃厚だが、しかし、あのたらこスパゲティ、あのサラダにアラカルトたち、それらへの扉は我々にもまだ開かれている。訪れる際は電話予約を必ず、マスターが腕によりをかけるコース料理は4000円前後から。ぜひ今、銅鍋へ。
函館市美原1-20-13
0138-45-8678
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