マリー美容院のマリー先生こと、鎌田祐子さんは御年86歳。中学校卒業後に美容師を志し、札幌の学校で技術を学んだあと、函館へ戻り19歳で美容師の資格を取得した。ときは昭和20年代後半から30年代、街が“北洋”に沸く華やかな頃。当時から腕が良かった鎌田さん、大勢いたホステスの顧客からは「彼女に髪を仕上げてもらった日は、お客からのチップが多い」という評判を集めるほどだった。26歳で、かつての国立病院(現千代台・テニスコート)の向かい辺りに店を構え、独立。以降、立地柄、医師や医師夫人、薬剤師など病院関係の顧客を多く抱える人気美容室となった。そして2年後の昭和39年、お客の入りきらなくなったマリー美容院は、現在の花園町へ移り、より多くの顧客を相手に多忙を極める店へ成長していく―。
ざっと、ここまでがマリー美容院と先生のプロフィールだ。そして、今回の主役である建物は、千代台から移転が決まったとき、鎌田さんの夫・孝さん(故人)が設計し、建てたものという。
その外観に、どことなく50~60年代の『アメリカン・ポップ』的な雰囲気を感じて今回取材を申し込んだのだが、建物の中も、曲線の使い方や壁紙、照明などにその片鱗を感じることができる。訊けば、孝さんが「なんせアメリカ好き」であり、アメリカに強い憧れを持っていて、音楽や映画もアメリカのものを頻繁に鑑賞していたそうだ。そうしてインプットされたものを下地に設計したのがこのマリー美容院。アメリカナイズされていると感じたのは、間違いではなかったようだ。ちなみに、店だけでなく、開店当時は女性のヘアスタイルもアメリカ風のアップスタイルが人気だったという。
一般向けの営業のみならず、婚礼の数も成人式を迎える新成人の数も今の比でなく、多忙を極めた全盛期。そんな時代を駆け抜けて、現在マリー美容院が店を開けるのは午前中だけ。マリー先生が80代ならば、その顧客も同様に年を重ねている。今は、美容師とお客という間柄で、長く人生を共にしてきた常連のためだけに、このかわいらしい美容院の灯りはともる。
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