コロナ禍で増えた、おうち時間。ペットフードを製造・販売する会社が立ち上げた「ペットフード協会」によると、心の癒やしを求めて、犬などのペットを新たに飼い始める人が増えているといいます。
はじめて犬を飼う人にとって、悩みのひとつになるのが「歯みがき」。歯みがきの重要性と、歯みがき嫌いを克服するコツを、プロに聞きました。
連載「コロナ禍ライフハック」
6月末、札幌市南区の真駒内セキスイハイムアイスアリーナで開かれた、「第5回 北海道ペットフェスティバル」。ペットと一緒に開場に入り、フードや洋服など、さまざまペット用品を買ったり、ウサギやハリネズミとふれ合ったりできるイベントです。
その中で、人気を集めていたひとつが、「日本ペット歯みがき普及協会」のブース。テーマは「犬の歯みがき」です。
歯ブラシや歯みがきシートなどのグッズ販売のほか、「歯ミガキマン」こと、赤津徳彦さんによる無料歯みがき講座が開かれていました。
赤津さんは、愛犬の健康を守るために、歯みがきは重要だと話します。3歳以上のペットの約8割が歯周病予備軍で、歯周病になると心臓などの命に関わる病気につながるといいます。
とはいえ、歯みがきをしようとすると、暴れたり飼い主を噛んだりする犬も…。30分の講座を通して、歯みがき嫌いを克服するコツを教えてもらいました。
歯みがき講座は、1回に2家族までで、それぞれの悩みを聞きながら開かれました。
赤津さんは、「人も目の前から突然口を押さえようとされたら、身構えますよね。犬も同じで、向き合っていきなり口に触ろうとすると、警戒してしまいます」と話しました。後ろから、体をしっかりと包み込むことが大切だそう。
まずチャレンジしたのは、ミニチュアダックスフンドのリサちゃん・1才。
赤津さんはリサちゃんを抱きかかえ、笑顔で話しかけます。「しっかりみがかなきゃ!と真剣な顔になるのではなく、笑顔で、歯みがきを楽しい時間にすることが大切です」
最初から歯ブラシに挑戦するのではなく、まずは歯みがきシートを使って、歯みがきに慣れてもらいます。
片手の人差し指にシートを巻き付けたら、もう片方の手の、親指を頭に、人差し指を唇に、中指から小指をあごに当てて、安定させた状態でみがきます。
「動くと不安ですから、包んで安心させてやるんです」と言いながら、スムーズにみがいていきます。飼い主さんは、「なんでこんなに大人しいの?」と驚きの声をもらしていました。
リサちゃんは小さいので、腕だけで安定しますが、大型犬の場合は、両足も使って後ろから包み込むようにしてみがくといいそう。
生まれて8か月の豆柴・はなちゃんは、気持ちいいはずのマッサージも苦手で、口の中を触られるなんて、言語道断!
飼い主さん相手でも、口の中に指を入れられると、もはや「ワン」でもない、「ア゛ー!!」という叫び声を発していました。
飼い主さんは今までいろいろな歯みがきグッズを試したといいますが、どれもはなちゃんのお気に召さなかったそう…。
赤津さんが膝に乗せ、笑顔で話しかけますが、警戒しているご様子。歯みがきシートを手にして、口の中を触ろうとすると…
牙をむいて大絶叫されてしまいました。
そこで無理に口を開けようとはせず、抱きかかえたまま、笑顔を向けます。飼い主さんと会話しながらも、ず〜っと、首や頬をなでていました。すると…あれ?
はなちゃんの表情が、ゆるんできました。
いつの間にか、歯を触られていても、この表情!
声を発したり、暴れたりすることなく、委ねています。
赤津さんは、「最初はシートのにおいを嗅がせて、口のあたりをなでさせてもらえるようになればOKです。こちらの落ち着いた心拍音も感じてもらいながら、口を触られても悪いことはないとわかってもらうことが大切」と話していました。
はなちゃんは、飼い主さんの腕の中に戻り、顔を触られても、叫ぶことなく落ち着いていました!
家での歯みがきでは、口元を触らせてくれるようになり、シートで歯みがきをできるようになり…と、焦らず段階を踏んでほしいといいます。シートでの歯みがきを嫌がらないようになったら、歯ブラシに挑戦。
シートでも歯ブラシでも、みがくときは、歯並びに注意点があるといいます。
模型を上から見てみると、口先から奥歯まで、歯が一直線ではなく、途中で内側に向かっているのがわかります。歯ブラシを真っ直ぐに差し込むと、この部分をみがけず、通り過ぎてしまうのです。歯みがきシートを指に巻いている場合でも、同じです。
このカーブを意識してみがくのも、ポイントです。
人が歯と歯の間をみがくために使う、歯間ブラシやデンタルフロス。「人は自分でみがいているのに、歯ブラシですべての汚れを取りきれないなら、犬はなおさらですよね」と話ながら、赤津さんが取り出したのは、歯みがきガムです。
寝る前に、よく噛んで食べてもらい、唾液をたくさん分泌させるといいそう。なので、一度にすべて渡してしまわず、手で持って食べさせます。
このとき、狙う歯があります。
矢印で示した歯の、黒く塗りつぶされているところは、くぼんでいて、汚れがたまりやすい場所。ここでガムを噛んでもらえるように、手を添えるのがコツです。
リサちゃん、上手!
歯についた歯垢は、歯ブラシでは取りづらい歯石になる前に、みがくことが重要。赤津さんによると、犬は人よりも歯垢が歯石になるスピードが早く、3日ほどしかかからないといいます。
しかし、「早く歯垢を取り切らなきゃ!」と嫌がる犬に無理をさせると、歯みがきがもっと嫌いになってしまい、逆効果。赤津さんは、「歯みがきをする猶予が2日間あると考えていい」といいます。「1日ですべての歯をみがかなくても、きょうは右側、あすは左側と分けて、1回の歯みがきにかかる時間を減らすとやりやすくなります」
講座では、ほかにも歯をみがく力加減や、歯に悪い食べ物、水の飲み方など、それぞれの疑問に応じて盛りだくさんのコツを紹介していました。
愛犬が苦手を克服していく瞬間を目の当たりにした飼い主さんたちは、「普段から触ることの大事さを学びました。無理矢理口に突っ込んだりせずに、続けていきたいです」「すごく大人しくなってびっくりしました。直接教えてくれるのはありがたかったです」と話していました。
顔を触られてもリラックスしているようになった、はなちゃんとリサちゃん。自然と2家族同士が打ち解けて、感動を分かち合う、和やかな講座でした。
愛犬の健康を守り、楽しい時間を長く続かせる、歯みがき。「歯ミガキマン」は今後も全国各地で相談に乗る予定で、最新の予定は日本ペット歯みがき普及協会のホームページで確認できます。
連載「コロナ禍ライフハック」