は〜い皆さん!ごきげんよう。 Sitakke連載【お悩み相談コラム】担当・満島てる子です。
Happy Pride Month!
……と、唐突な祝福から始まってしまいましたが、6月は世界的に「プライド月間」と呼ばれていることを、皆さんはご存知だったでしょうか。これは、「ストーンウォールの反乱」と呼ばれる、LGBTQプライドパレードの歴史の発端となった出来事が、この月に起こったことを記念する呼び方です。日本でもこのタイミングで、ジェンダーやセクシュアリティの多様性に関する様々な発信が、近年広く行われています。
女装のゲイ。ひとりの性的マイノリティでもあるあたし。
「この機会に、何か記事にできたらなぁ」なんて思っていたところに、Sitakke編集部の皆さんから「実はこれまで、お悩み相談以外にも”こんな記事が読みたい!”という要望が、応募フォームに結構来てるんです。その中から今回はひとつ選んで、フリーテーマのコラムとして掲載してみてはどうでしょう……!」というご提案をいただきました。
「どんな書き込みがあったのかなぁ」と送られてきた資料を見ていたら、「てる子さんってどんな曲聴くんですか?」という質問がいくつか。そうそう、パレードをはじめとするLGBTの集うイベントでもそうだし、あたしが「ドラァグクィーン」として行うパフォーマンスにあたっても、音楽ってとても大切な役割を果たしているのよね。そして、人生の節目節目で、悲しいことや辛いことがあったときも、いろんなアーティストの曲に助けられてきたの。
なので今回は、ちょっと個人的な思い出整理も兼ねつつとはなりそうですが(あたしこれ、いつもやりがちよね笑)、プライド月間とも絡み合わせながら、「当事者が選ぶ、勇気づけられた曲3選」ということでお届けしようと思います!
せっかくだから「昭和・平成・令和」と、世代をまたぎながらのセレクトを。
まずは「この人の歌、カラオケの十八番!」なんて人もいるはず。伝説のディーバの一曲からです。
パートナーである郷鍈治との死別をきっかけに、実質芸能界を引退をしたちあきなおみ。ですがそんな彼女の歌声は、今でも人の情感をゆさぶり、あたしたちのこころに一種の浄化をもたらしてくれます。代表曲とも言える「喝采」(1972年)は、発売から3ヶ月という史上最短記録で日本レコード大賞を受賞。またこれに匹敵する名曲「夜へ急ぐ人」(1977年)は、そのパフォーマンスの凄みもあいまって、無類の怪作として世間の話題を総ざらいにしました。
そんなちあきの18枚目のシングルが、今回ご紹介する「かなしみ模様」。
阿久悠が作詞をし、同年の紅白歌合戦でも披露されたこの曲は、恋を失った戸惑いや憂いを歌い上げるものなのですが、その内容と裏腹に、軽やかなメジャーコードで全体が織りなされています。「ゆらゆらゆれるこころのなかに 涙が描くかなしみ模様」というサビの部分は、ちあきだからこそできる、しっとりとしつつも説得力のある歌い上げに、きっと画面越しに拍手を送りたくなってしまうはず。
この「かなしみ模様」と初めて出会ったのは、自分がゲイであることを受け入れられず、メンタルの調子を崩して大学院を休もうと決意した頃。もう10年近く前でしょうか。
好きな人がそばにいてくれる人生なんてきっとずっと歩めない、これから同性愛者としてどう生きていこうか、どう生きていけばいいのか、全然見当もつかない……思い返せば、当時のあたしはそんな不安と絶望でいっぱいいっぱいになっていたんだと思います。
そんな昔の自分には、「かなしみ模様」の世界観がぶっ刺さっていたようで、この曲を何度も繰り返し、お守りのように聴いていたのはいい思い出。今でもしんどいことが重なったりすると、思わず指が再生ボタンをタップしていることがあります。
特にBメロの歌詞が、1番も2番も両方、すんごく骨身にしみるのよね。
♪一人が似合う人もいるけど 私には似合いそうもない (1番)
♪明日が好きな人もいるけど 私には今日しかわからない (2番)
ここ数年、婚姻の平等に関する裁判が行われ、さらに全国の各自治体にもパートナーシップ制度の導入が広がってきたことで、「誰かと一緒にいる」という一種ポジティブなイメージを、当事者が具体的なかたちとして、抱きやすくなってきたように思います。
またLGBTQという観点から、今後どんな社会制度が必要か、教育などの場面で何をすべきなのかなど、ようやく未来の話、明日の話ができる風潮に、社会もコミュニティ内部も変わってきました。
ですが、かつてのあたしのように自分の置かれた境遇に計り知れない孤独を感じ、今を生き延びることで精一杯な性的マイノリティは、きっとこの世界に、あたしの隣に、そしてみなさんのそばに、依然たくさんいるはず。そうした当事者のために何を届けられるのかという視点を、情報を発信する側に立っている身としては、どんなときも忘れてはいけない。
昭和の歌姫のバラードは、今でも聴くたびにそんなメッセージを自分にもたらし、スッと背中を押してくれるのです。
さて2曲目には、割と小っ恥ずかしくはあるのですが、昔好きだった男の子から「これ、いい歌すよね」と教えてもらったなんていう、ほろ苦い思い出が。
幅広い年齢層に愛されるロックバンド、スピッツ。「空も飛べるはず」(1994年)や「チェリー」(1996年)は、聴くだけにとどまらず全国民が一度は歌った経験があるのではないかと思うほど。近年では、ゲイカップルのゆるやかな日常を描いた漫画『きのう何食べた?』の劇場版の実写映画に、配信シングル「大好物」(2021年)を楽曲提供したことで、LGBTQコミュニティ内でも話題となりました。
その17番目のシングルCDとして発売されたのが「運命の人」。
こちら、明るくリズミカルな仕上がりでありながら、実は「じゃあどんなシチュエーションを、どのようなスタンスで表現したい歌なのか」について、いろんな解釈がありえる複雑な味わいの一曲になっています。
ボーカルでもある草野さんの独特の作詞が、丸みと尖りを両立させた深い世界観を作り出しているのでしょう。
大学4年生のとき、研究室の後輩相手に、人生で初めて同性に対する告白をし、きちんとフられたあたし。「僕はゲイです」と誰かの前ではっきりと言葉にし、カミングアウトを経験したのも、その告白の瞬間が最初でした。
だから、誰かに好意を伝え断られることのかなしさと、それまでずっと避け続けてきた、自分がゲイであることを直視し人に開示するという行いのしんどさ、そのふたつがあいまって、相当な精神的ショックを受けたこと、よく覚えています。
そんな失意のどん底にありながら、その中でも救われたのは、告白の相手となった後輩くんが、カミングアウトの後も、彼なりの優しさをこちらに向けてくれたこと。「何も話さなくていいから、俺んちで飯一緒に食べましょう」と声をかけてくれたり、自室に籠城しがちになってしまったあたしに、手作りのシュークリームを差し入れとして届けてくれたり。そんな彼が、部屋にあたしを迎え入れてくれたときに、さらっとこの「運命の人」を流していたのです。
♪愛はコンビニでも買えるけれど もう少し探そうよ(1番Bメロ)
♪あえてただのユートピアも汚れた靴で通り過ぎるのさ 自力で見つけよう神様(1番サビ)
愛する相手ってパッと見つかるようで、真剣に探すならきちんと時間はかかる。今は傷つきもしたろうし、未来に向かって歩くのもまだしんどいかもしれない。でも、こうしてどろんこになった先に、夢だけの世界を超えた本物の出会いがあるはずだから、自分なりに歩けばいいよ…… そんな、この曲をチョイスした彼なりの応援メッセージのようにも聴こえ、ありがたいなぁと思いながら、涙で相手のこたつをびっしょびしょにした記憶があります。笑
それ以来、学生時代はもちろんのこと、今でも大事な人との待ち合わせの前や、店からひとり帰る道すがらなど、なんだかこころがどうしてもフワッとなるタイミングで定期的に再生。
その度に「ゲイ」としての自分を初めて受け止め人にも伝えた、あたしの中の原風景を反芻しつつ、まだまだこれからも汚れた靴で歩んでいくかぁと、耳から自分のことを応援してあげたりしているのでした。
最後に紹介するのは、自身のインスタライブ内でカミングアウトを行い話題を呼んだ、あたしの大好きなヒッキーの曲です。
それは昨年の6月26日、自身の楽曲「One Last Kiss」(2021年)を提供した、映画『シン・エヴァンゲリオン劇場版』の庵野秀明監督とのコラボ配信の冒頭での出来事でした。
ヒッキーは「私はノンバイナリーなの。Happy Pride Month!」と、自身の性自認の公表とともに、プライド月間を祝福する言葉を視聴者に投げかけたのです。
これはあたしにとってもすごく衝撃的で、かつ励みになる出来事でした。
日本ではアーティストをはじめ著名人のなかで、LGBTQとしてカミングアウトをしている当事者は少ないのが現状です。その中で、自分がひとりのファンである歌手から、公式的な場でそうした発信があった……!
性的マイノリティの可視化が大きく進んだ瞬間を目の当たりにしたように思いました。
近年では、LGBTQの当事者かのように振る舞うことで世間の注目を集め、それを私的な利益に結びつけようとする「クィアベンディング」という手法が、海外セレブの問題行為として批判されることがあります。なので「〇〇がカミングアウト!」というニュースに対しても、また性的マイノリティを利用しようとしているだけなのでは?と、慎重にならざるをえません。
ですがヒッキーは、2022年2月にApple Musicの人気ポッドキャスト番組の中で、改めて自身の「ノンバイナリー」という自認について、明確にしっかりと語りました。
「最初に「ノンバイナリー」という言葉を知ったのって多分数年前なんだけれど、「自分ってこうなのかな?ちがうかな?」って疑問とか全然無くって、「わあ! この言葉やばいね!?私の人生そのもの! ハロー! とうとう会えたね! 」って感じだったんだ。」(和訳は筆者)
ヒッキーは続けて、日本の現状についても言及し、自分のスタンス表明とともに問題提起をしてくれています。
「性自認というのがあるんだよって考え方だったり、その概念についてだったりって、日本だと全然きちんと議論されていなくて、自分としてはそこにちょっと責任あるなって感じたの。家族からの支えや愛情をなくしたり、仕事だったりなんだったりを失うんじゃないかって、当事者の人は恐れるものだと思うんだけれど、自分(宇多田ヒカルって存在)は基本的に単なるパブリックイメージなんだから、そういうことを心配せずともいいんだし、ならカミングアウトすべきだよなって思ったんだよね。で、実際してみてめっちゃ気分良かった。」(和訳同)
もちろん、こうした発言があるからといって、必ずしもその楽曲のすべてがLGBTQテイストに彩られているとは言えないでしょう。ですが最新アルバムに収録された曲たちは、当事者を勇気づける内容で溢れているように感じます。
例えば「Pink Blood」(2021年)の歌詞は、「誰にも見せなくても キレイなものはキレイ」と、聞き手に静かな自己肯定感をもたらしてくれると、SNSを中心にコミュニティ内の話題になりました。また、アルバムの表題曲でもある「BADモード」には、カミングアウトを迎えるにあたって当事者の大半が抱くモヤモヤ、そこに加えて、誰かとともにいるための優しい決意みたいなものが溢れているのではないかと、あたしは思います。
♪何度自問自答した?
♪誰でもこんなに怖いんだろうか?
♪二度とあんな思いはしないと祈るしかないか
♪わかんないけど君のこと絶対守りたい
♪今よりも良い状況を想像できない日も 私がいるよ
ヒッキーのようなアーティストが日本でこれから増えてくるかどうかは、正直わかりません。ですが、そのカミングアウトによって示された方向性は、非常に開かれたものがありました。楽曲たちの投げかけてくれるメッセージにも、その生き方に裏付けられた、ゆるやかな明るさがきらめいています。
その明るさに照らされることで、きっとこれからもあたしは、いちファンとしてもゲイの当事者としても、ヒッキーの歌から勇気を得ることでしょう。音楽は確かにひとつのちからであり、そのちからによって生かされているところがあるのだなぁと、歌手”宇多田ヒカル”と出会うたび、こころを新たにさせられるのでした。
いかがだったでしょうか。
ちあきなおみ、スピッツ、宇多田ヒカル……あたし自身のゲイ人生も振り返らせてもらいながら(笑)、3組のアーティストをピックアップさせてもらいました。
プライド月間となると、もし音楽の話題に触れるとしたなら、ゲイアンセム(LGBTQのイベントでよくかかる定番曲。クラブ調の洋楽が多いです)が紹介されがちなような気がするんだけれど、あえて今回は毛色を変えてみたわ。読んで楽しんでいただけてたならこれ幸いです。そして、改めてHappy Pride!
お悩み相談とはまた毛色が違うかもしれないけれど、いつか、みんなの好きな曲あつめてコメントしてみた!なんて記事も書いてみたいわね。
読者の皆さん、思い入れのある曲、これに勇気づけられたよって曲、あればぜひ【応募フォーム】から気軽に教えて下さい!気になるわ〜。
ではでは、いずれまた。
Sitakkeね〜!
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文:満島てる子
イラスト:mzh324
編集:nabe(Sitakke編集部)
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満島てる子:オープンリーゲイの女装子。北海道大学文学研究科修了後、「7丁目のパウダールーム」の店長に。LGBTパレードを主催する「さっぽろレインボープライド」の実行委員を兼任。) 2021年7月よりWEBマガジン「Sitakke」にて読者参加型のお悩み相談コラム【てる子のお悩み相談ルーム】を連載中。
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