毎日なんとなく過ぎているような気がする……。
今日も何もできなかったなと反省しながら眠りにつく。
そんなことはありませんか?
真面目な人、一生懸命な人ほど、自分に厳しく、できなかったところを見つけてはもっと頑張らなくてはと自分を責めがちです。
実は、この自分を責めるという行為は非常に気持ちを落ち込ませます。そして落ち込んで、精神的なエネルギーが低下してくると活動力が低下して、どんどん思うように物事がこなせなくなるという悪循環に入ってしまいます。
今日は、何もできない自分を責めて落ち込むあなたに知ってもらいたい、ちょっと楽になるヒントを公認心理士の筆者がお伝えします。
よく、「今日も何もできなかった……」と嘆く声を聞きますが、本当にそうでしょうか?
何もできなかったと思い込んでいるだけで、着替えをしたり、ごはんを食べたり、仕事に行ったり、子どもの世話をしたり……
やることが当たり前になっていて、気づかないだけであなたの日常はたくさんの頑張ったことで成り立っています。
本当にソファーでゴロゴロしていただけ……という方。それだって、あなたの体や心を休めるためにはとても大事なことです。何かを作っている、何かの動きをしていることだけが「何かをやっている」ことではないのです。
昔、パニック障害の患者さんが「地下鉄に乗れない」と困っていました。地下鉄に乗れないということが、その方にとってどういう意味を持つのか一緒に考えてみました。
すると……彼女はパニック障害前から地下鉄に乗る必要がない生活を送っていて、地下鉄に乗りたいわけでもないということに気が付きました。地下鉄に乗りたい方が地下鉄に乗ることができないのであれば、乗ることができる方法を考えることが必要です。
ただ、地下鉄に乗りたいわけでもなく必要もないのであれば、地下鉄に乗ることができないと自分を追い詰め、多くのエネルギーを使う必要はありません。
その患者さんは「地下鉄に乗ることができるようにならなければ」という思い込みから解放されたことで逆に気持ちが楽になり、気づけば自分はバスやJRには乗ることができて、どこにでも自由に行けるようになりました。
そして、バスや地下鉄などで成功体験を積む中で自信がつき、数年たった今では「今も地下鉄に乗る必要はないけれど、もし乗る必要があったら乗ってみようと思う」と笑顔で語るまでになりました。
できていないことに注目して自分を追い詰めるよりも、できていることに注目して成功体験を積み重ねることで心は元気になっていきます。
何もできていないなと思ったときには、本当に自分がやりたいことができていないのか、それともただ何かをやらなくてはと焦っているだけなのかと立ち止まって考えてみるといいですね。
これまでの人生で、様々な目標をたてて、そこに向かって努力するように育てられています。学生時代の試験では満点を目指して、受験や就職に向けてもっともっとと常に努力をするように育てられます。
もちろん大事なことです。ただ、そういう「もっともっと」と自分を追い詰め続けることはとても苦しいことで、心の健康を時に害してしまいます。
何かをしていなければ、何かができなければ自分がここにいてはいけないような気がする。そう訴える人がとても多いのです。だから何かをやっていなければいけないと思い込み、何もできていない自分を責めてしまうのですが。
本当にそうでしょうか?
あなたが一番大事に想う人のことを思い浮かべてください。
あなたがその人を大事に想うのは、その人が何か特別なことができるからですか? 何かすごいことをしてくれるからですか?
その人がそこにいてくれるだけでいいと思いませんか?
自分のことをそんな風に想ってくれる人はいないと思う方もいるかもしれません。
でも、あなたが大事に想っている人にとっては、何もしなくてもいてくれるだけでいいと想ってくれるあなたこそが大事な人なのです。
だから、何もできないと自分を責める必要はありません。自分が何かやりたいなと思って、その時がきたら、きっとうまく物事が動き始めます。一歩が出せない時はまだその時ではないのです。
きっとその時が来ます。今できていることを一つ一つ積み重ねて、自信を育てながらその時を待ちましょう。
文:竹原久美子(公認心理師/婦人科クリニック勤務)
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