2022.05.22

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ゲイと自覚してから、一生見ることがないと諦めていた「孫」ができた…愛を注いできた「子ども」がつなげてくれたもの【前編】

左がきみちゃん、右がちかさん

「こころが男性どうし」のふうふ・ちかさんときみちゃん。そして2人の間に宿った新しい命・羅希ちゃんを、若手記者が見つめる連載「忘れないよ、ありがとう」。きょうは番外編として、ちかさんの職場であり、ふうふの出会いの場であるバー「7丁目のパウダールーム」の店長・満島てる子さんに、想いを綴ってもらいました。

***

自分の店の「子」のつかんだ幸せ。
そして自分の「子」に授かった、羅希ちゃんという、まるで「孫」のような存在。
2021年は結婚や家族、そしていのちについて、これまでにないぐらい考えさせられた年でした。

Sitakkeではいつもお悩み相談コラムを担当しております、満島てる子です。

今回は連載「忘れないよ、ありがとう」の記事のひとつとして、ちかときみ、そして羅希ちゃんの「3人をずっと見守ってきた立場から、感じていたことを書いてもらえませんか」と、編集部のみなさんからお声がけをいただきました。

正直昨年末の出来事については、ちかときみの2人はもちろんそうでしょうが、あたしもまだまだ心の整理がついていません。
ですがその上で「執筆」という、自分たちの気持ちを調律しまとめる機会をいただけたことは、ある意味あたしにとっての「救い」でもあって、言いしれようのない感謝とともに、今こうしてパソコンのキーボードへと、己の思いを打ち付けています。

この記事では、ふたりの出会いから結婚、そして羅希ちゃんをさずかってという、その一連の出来事について、そばにいた人間として考えたこと、感じたことを記していくつもりです。

結婚について

さて、話をはじめるとすれば、やっぱり2人の出会いと、入籍についてから。
「実はいい人がいるんです」というのをちかの口から聞いたのは、もう3〜4年近く前だったでしょうか。

まぁあたしも、出会いや別れといった様々な縁の結び目を見届けることの多い、飲み屋のママという仕事柄、そうしたことについてはなんとなく勘のいい方です。ましてや、自分の店のキャストという、ほぼ自分の「子」のような存在。
「おそらくきみちゃんだよな……?」なんて気が付きつつも、「え?誰よ」と質問したのをぼやっと覚えています。

オレンジのかつらをかぶったのがちかさん、座っているのがきみちゃん(一昨年)

7丁目のパウダールームで出会った、ちかときみ。
シスジェンダーのゲイ(※1、2)と、トランスジェンダー(FtM)のバイ寄りパンセクシャル(※3)。
飲み屋のスタッフとお客様という距離感からはじまった2人の関係は、じゃあすぐ進展したのかというと、そういうわけではありませんでした。

店終わりに一緒に帰る姿を「ほほえましいなぁ」と思いながら見送ったり、「映画に行ってきたんです」と、休日でも共に遊びに来てくれるのを嬉しく感じたりしながらも、そのお互い煮えきらない様に、勝手にこちらがヤキモキ。
当時「もう付き合っちゃえばいいのに」と思っていましたし、聞くところによると、どうやらそう本人たちにも言っていたようでした(お酒の力って怖いわね……笑)。

だから、付き合ったという報告を受けたときには、正直「ようやくかよ!」というのが、いの一番に思ったことだったのですが……。
そこからはうってかわってスピーディーで、「2人で暮らしてるんです」、「結婚しようと思います」など、ちかときみのそうした将来に向かう動きであったり、決意について告げられたのは、間をそこまで空けず、むしろ唐突と言っていいぐらいでした(勢いに気圧されていたなぁ、その頃のあたし……笑)。

でも、じゃあすんなり入籍が実現したのかというと、実はそんなことはなく。
「1年ほど先延ばしすることになりました」という報告を受けたのは、確か一昨年。

それぞれの両親への挨拶を進めるなかで、きみ自身の性自認、ちかのセクシュアリティ、2人の関係などをきみのお父さんが受け入れられず、その結果「あの人(ちか)はもう実家に連れてくるな」と言われてしまったというのです。それを聞いた時は、あたしもショックを受けました。

多くのLGBTQ当事者にとって、まず自分の性のあり方を親にカミングアウトするには、非常に勇気が要りますし、その過程は不安でしんどいものです(あたし自身、拒絶されるのではないかという恐れから、長らく父にも母にもゲイであることを隠していました)。それは、受け止める側のお父さん、お母さんにとってもそうでしょう。

ましてや自分の大切なパートナーを紹介するとなると、事はより大きく、そして難しくなります。きみのお父さんもきっと戸惑ったでしょうし、その発言を責める気持ちは、あたしの中には微塵もありません。

ですが、2人が結ばれるために頑張ってきたこと、いろんな憂慮もありながら親に挨拶しようと決意したこと、そういう姿をはたから見ていたからこそかつてのあたしは、「結婚したいという気持ちがここでストップしてしまうのは切なすぎる」と、この出来事に苦しい気持ちを抱いていました。

しかもその後、世の中はコロナ禍に突入。
「結婚式もしたいんです!」「じゃあお客さんも呼んでさぁ、二次会は7パウで」なんて言っていたあたしたち。そんな夢も虚しく、人を集めるなんてもってのほかという状況の中で、一旦すべてがストップしたわけです。

情報が混線し、身を守るのも大変な状態の中、あたし自身、2人が出会った場所すら守れないんじゃないかというマイナスの感情で、心の中はいっぱいいっぱい。みんなの居場所を無くさないよう奔走する日々は、曜日感覚も無くなるような、まさに限界状況でした。

オレンジのかつらをかぶったのがちかさん、手前がてる子さん

なので、「延ばしていましたが、今年の6月14日に籍を入れます!」と、2021年になってから聞いた時には、「え、もう1年も経っていたのね」と時の流れの速さにまずびっくり。
それと同時に「ちかときみはこの瞬間をどれだけ待っていたろうか」と思い、2人がようやくひとつのスタート地点に立てることを、心の底から祝福する気持ちになりました。

あたしたちの働く7丁目のパウダールームには、他にも系列店が2店舗あり、様々なセクシュアリティを持つスタッフが何人も働いていますが、実は所属している人が「結婚」するのは初めてのこと。
2人の決定を知らせたときには「世の中そんなところまできたんだ」「まさか結婚祝いを出す日が来るなんて」と、系列のママやオーナーから、驚きの言葉をもらったのが印象的でした。

今の日本では、戸籍上「男」「女」でなければ、婚姻という選択肢にたどりつくことができません。だから、多くのゲイやレズビアンにとって「結婚」というのは、そもそも人生の道行きとしてリアリティが無いもので、それはあたしたちにとっても例外ではありませんでした。

裁判を通じて同性婚を勝ち取ろうという動きが昨今活発になってきて、札幌地裁では実質勝訴の判決が出るなど、時代は少しずつ変わりはじめていますが、それでも「婚姻届を書くことなんてない」という諦めにも似た気持ちは、当事者の中に、そしてあたしの心の中にも、いまだこびりついているように思います。

だからこそ、ちかときみがいよいよ、「結婚しました!」と入籍した瞬間の写真を送ってくれたときには、お祝いの気持ちだけではなく、「もちろんいろんな葛藤はあったろうけれど、このゲイカップルがたどり着いた”結ばれる”という幸せに、もしかしたらいつかあたしたちもたどり着けるのかもしれない。時代は変わってきているんだ」と、2人の姿から逆に気付かされ、勇気付けられたりもしていたのでした。

家族について

制度上の「結婚」というよりは、2人が共に歩んでいくと決意し、周りに知らせたという意味での、あたしにとっても特別な「けっこん」から3ヶ月ほど経った、そんなある日のこと。

さっぽろレインボープライドの開催を2日後に控え、その準備に明け暮れていたあたしに「電話してもいいですか?」とちかから連絡が。
どうしたんだろうと思いこちらからかけてみて、心臓が飛び出るほどびっくりしました。
明るい声で「赤ちゃんができました!」と、ちかときみが口を揃えて言うのです。

何がびっくりしたかについて、誤解してほしくないので、あえて明言します。
トランスジェンダーの男性(FtM)が妊娠したから驚いたとか、あたしにはそういうのは一切ありませんでした。
きみが、ちかとの子どもがほしいことを理由に、男性ホルモンの投与をはじめとする、性別適合に関する医療処置を中断したことを知っていましたし、自分たちとその子どもに対する社会的な保障を考えてこそ、法的効力に限界のある札幌市のパートナーシップ制度ではなく、「結婚」という制度を選択したとも聞いていたからです。
「赤ちゃんを作って、幸せな家庭としてその子を育てたい」という熱意、それに向けての努力、それを見ていたからこそ、2人の願いはあたしにとっての願いでもありました。

「えええ!?」と思ったのは、なんと「妊娠6ヶ月だったんです!笑」という報告。
妊娠は十月十日だなんて言いますが、そこから逆算して「え?てことはあたしあと半年以内におばあちゃんになるってこと?!嘘でしょ?!心の準備が……」と無茶苦茶に動揺し、スマホのスピーカー越しに、嬉しい気持ちと焦る気持ちでぐちゃぐちゃになったのをはっきり記憶しています。

カウンターに立つちかさんとてる子さん(去年)

ゲイバーの店長は、店にもよりますが、たいてい「ママ」と言われます。
そして、そこで働くスタッフは、その店のメンバーとして迎え入れられることである意味もう一度「生まれ」、そこで育てられた「子ども」というニュアンスを込めて、「店子(みせこ)」と呼ばれるのです。
自然とそこには、母と子のような、一種の「家族」としてのつながりが出来てきます(もちろんきちんとした「仕事」としての、関係性のけじめもあった上でなのですが)。
お客さんという「親戚」も含めると、大きなひとつのコミュニティがそこに成立することになります。

あたしは、自分がゲイだと自覚したときから、ずっと「親に孫の顔を見せることが出来ない、なんなら自分だって己の子どもの顔、そして孫の顔も見ることはない」という、一種の罪悪感にも似た引け目を感じていました。
両親にカミングアウトし、紆余曲折がありつつも受け入れられ、こうして札幌でひとりの女装として生きていくことができるようになっても、その感覚はしばらく消えませんでした。今でも消えていないかもしれません。
同性婚反対の立場の意見として「結婚は生殖を前提としている」という発言が各所から出るたびに、「この国では子どもを作れない人間は、やっぱり人間として扱われないのか」と、絶望にも似た気持ちを抱いたものです。

だからこそ自分が、7丁目のパウダールームの「ママ」になると決まったときには、自分のもとで働いてくれる「子ども」たちに惜しみない愛を注ごうと、そう強く決意をしていました。
今も、7パウを支えようと頑張ってくれる店子たち、その店子たちを応援し、楽しい笑顔を見せてくれるお客様の姿を見るたびに、「これが自分に作ることのできるファミリーだ。この関係性を、このコミュニティを、一生大事にしていきたい」と都度心を新たにしています。

その「子」が、あたらしいいのちを授かった……つまり、あたしにある意味「孫」ができる。
一生見ることがないと諦めていた、「孫」の顔。

本当に、心底嬉しかった。

「なんで6ヶ月間も気づかなかったのよ!急すぎんのよあんたら!」というツッコミはさておくとしてです(本人たちには言いましたが……笑)。
7パウに関わる誰しもが、当時あたしと同じように「自分たちのこと」「この家族のこと」として2人の妊娠を喜んでいました。そして、羅希ちゃんと会えるのを今か今かと待ち望んでいたように思います。

今回の一連の取材のなかで、ちかのお母さんとお話する機会をいただいたことがありました。
12月に入ってのこと。年明けの予定日も迫った時期のことです。

右からてる子さん、ちかさんのお母さん、ちかさん(去年)

なので「お久しぶりですね!」という挨拶もそこそこに、「いやもうすぐ出産なのよね〜」「なんだかドッキドキなの」「え!あたしも〜」と、お互いの気持ちを打ち明けあったことが印象的でしたが、そんな会話の中でも特に、ちかママと「これから、おばあちゃん同士、よろしくおねがいします」と頭を下げあったことが、あたしにとってはすごく大きいことでした。

「2人の出会った場所はここだし、2人をくっつけてくれたのはてるママです」と温かい言葉をくれるちかママ。
そんなちかの実の親御さんから、ちかときみのこれまでについてであったり、羅希ちゃんについてであったり、それぞれの胸の内をさらけ出した上で、「おばあちゃん」というキーワードを通じて「家族」としてのつながりを認めていただけた……そんな風に思ったんです。
自分が作り続けてきた7パウというファミリーに、新しくもあたたかい血肉が通った瞬間でした。

ちかときみ、そしてふたりの間に宿った、羅希ちゃんといういのち。
この3人の「家族」の存在によってあたしは、自分がどこか諦めていて、でもずっと心のどこかで求め続けていたつながりが、こんなにすぐそばにあったんだということを知ることが出来たのでした。

あたしたちにそんなたくさんのことを教えてくれた羅希ちゃん。
ちかときみ、そしてあたしを含めその周りにいる人々が、これから育んでいく大切な存在。
でも、その子と自分たちとの出会いは、願ったものにはなりませんでした。

***

連載「忘れないよ、ありがとう

※1:シスジェンダー
……生まれたときに割り当てられた性別と、自身の性自認(自分の性をどう認識しているか)が一致している人のこと。例えばあたしについて言うと、生まれたときに「男性」と言われ、現在自分のことは「男性」だと考えています(そして、好きになるのは「男性」です)。なので自己紹介をするなら、シスジェンダーでゲイ(男性同性愛)の当事者ということになります。

※2:バイセクシャル
……好きになり、性愛の対象となる範囲が、男女どちらでもありうる人のこと。バイセクシャルであるかどうかは「好きになる性(性指向)」に関わる話なので、その当事者は様々な性別や性自認を持っています。

※3:パンセクシャル
……好きという感情を持つ相手が、「男女」という区分のみでなく、どんな性のあり方をしていてもいい人のこと。「バイ寄りパンセクシャル」は、きみが自分自身のセクシュアリティを表現するのに使っていた言葉です。きみは「ちかが男だから好きになったというよりは、ちかだからこそ好きになった」と、あたしに語ってくれたことがあります。またちかは普段から「自分は男っていうか……”ちか”です」と言っています。

***

文:満島てる子
オープンリーゲイの女装子。北海道大学文学研究科修了後、「7丁目のパウダールーム」の店長に。LGBTパレードを主催する「さっぽろレインボープライド」の実行委員を兼任。2021年7月よりWEBマガジン「Sitakke」にて読者参加型のお悩み相談コラム【てる子のお悩み相談ルーム】を連載中。

編集:Sitakke編集部IKU

Sitakke編集部

Sitakke編集部やパートナークリエイターによる独自記事をお届け。日常生活のお役立ち情報から、ホッと一息つきたいときのコラム記事など、北海道の女性の暮らしにそっと寄り添う情報をお届けできたらと思っています。

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