2022.05.21
深める2人の心情を察して、わたしは連絡を控えていました。しかし2日後、ちかさんが連絡をくれました。「こんにちは。もし嫌ではなかったら羅希の顔を見に家に来ますか」
思いがけないメッセージに、胸が詰まりました。悲しみの中でわたしに連絡をくれたこと、大切な2人の赤ちゃんに会わせてくれること。本当に頭が下がる思いでした。
12月31日、大みそか。JRに乗って2人の家に行きました。玄関のベルを鳴らすと、2人は思いのほか優しい笑顔で迎え入れてくれました。
リビングの隣の部屋に、みどりのパーカーを着た羅希ちゃんがいました。
羅希ちゃんのためにと2人が少しずつ買いそろえてきた、たくさんの絵本やぬいぐるみに囲まれていました。
小さい、小さい手。ちかさんが指を入れても、その指をつかむ力は、羅希ちゃんにはありません。
「抱っこしませんか?」
きみちゃんは、ゆっくり羅希ちゃんを抱きかかえ、首が落ちないようにそうっとわたしの腕に預けてくれました。2500グラムを超えていて、ずっしりとした重さを感じました。ただとても、冷たかった。
「抱っこしてもらえて、よかったね」
きみちゃんは私に抱っこされている羅希ちゃんの顔を、優しく覗き込みました。
口数も笑顔も少なくなったちかさんと対照的に、きみちゃんは、いつもより笑顔でした。何度も羅希ちゃんに優しく話しかけ、顔を拭きます。こみ上げてくる感情を、隠そうとしているように見えました。
きみちゃんは、羅希ちゃんに宛てて書いた、手紙を見せてくれました。
「羅希へ
ぼくたちの間にきてくれてありがとう。うまれてくるのをたくさんの人たちとともにまってたんだよ。また天国で会おうね。
大切で大好きな羅希ちゃん!!
忘れないよ!!ありがとう!!」
病院から帰ってきて、真っ先に書いたといいます。
「泣かないっていうのは無理だと思うけど、なるべく…心配かけないでっていうか、『むこうで会おうね』って約束しながら送りだせたらなと思う」
2人は、それから2日間、羅希ちゃんと一緒に過ごしました。買っていた服を着せたり、近所に散歩に行ったり、羅希ちゃんの誕生を待っていてくれた周囲の人たちに会わせたりと、家族の思い出をたくさん作っていました。
1月2日。花やぬいぐるみと一緒に、小さな棺に入った羅希ちゃん。空へと、旅立っていきました。
■こころが男性どうしのふうふと、新しい命を見つめた連載「忘れないよ、ありがとう」