2022.05.14
深める常連客のくらんさんがやってきました。てる子さんの指示を受けながら、ちかさんがビールを準備します。
3年ほど前から店に通ってきたくらんさんも、ちかさんときみちゃんを近くで見守ってきたうちの1人です。
「友達ふうふが子どもを授かったんだということが純粋にうれしい!男どうしのふうふだからとか、きみちゃんがトランスジェンダーだからうれしいっていうのは、特にない」
「常連みんなが近所のお姉さんお兄さんみたいな感じ」「(ちかさんもきみちゃんも)お父さんであり優しいお母さんでありっていう印象だから、すごく面白い子育てになるんじゃないかな」
くらんさんの言葉を、ちかさんは噛みしめるように、うなずいて聞いていました。
今の社会では、ちかさんときみちゃん、羅希ちゃんがぶつかる壁は、多いのかもしれません。それでも、この日の取材で、3人には味方が多くいることがわかりました。その存在は、3人のこれからを照らす「希望」のようで、そんな人たちに支えられた3人は、社会の壁を打ち壊す「希望」となるように感じました。
「こころは男性どうし」のふうふの妊娠。取材を始めたときは気を張っていましたが、2人や周囲の様子を見ているうちに、いつしか明るい未来しか想像しなくなっていました。
きみちゃんのおなかが膨らむにつれ、羅希ちゃんに会えるわくわくも膨らみます。
しかし、年の瀬に2人から届いた知らせは、信じたくないものでした。
連載「忘れないよ、ありがとう」
文:HBC報道部・泉優紀子
札幌生まれの札幌育ち。記者歴4年。道政・市政を担当しながら、教育・福祉・医療に関心を持ち、取材。大学院時代の研究テーマは「長期入院児に付き添う家族の生活」。自分の足で出向き、出会った人たちの声を聞き、考えたことをまとめる仕事に魅力を感じ、記者を志す。居合道5段。
■こころが男性どうしのふうふと、新しい命を見つめた連載「忘れないよ、ありがとう」