2022.05.14
深める白い紙に大きく書かれた、「希」の文字。
2人の間に宿った、赤ちゃんの名前に使う漢字です。
「将来、希望にあふれた子に育ってほしいっていう思いがあって」
もう一文字、羅針盤の「羅」という字を組み合わせて、「羅希(らき)」と名付けることにしました。
「人を希望に導けるようになってほしい」。そんな想いを子どもの名前に込めた背景には、2人がこれまで関わってきた人たちへの気持ちが影響しているのではないかと感じました。
2人が出会ったのは、札幌のバー。すすきのの中心部から少し西、市電通り沿いにある、「7丁目のパウダールーム」です。
ちかさんはここで週に何度か働いていて、きみちゃんはもともと、お客さんでした。
7丁目のパウダールームは、「セクシャルフリーの女装サロンBAR」。客もスタッフも、自分が好きな格好をして過ごすことができます。性別にとらわれず、仕事の話でも恋愛の話でも自由にできる空間です。
2021年12月中旬。店のママである満島てる子さんに会いたいと、ある人が訪れました。
ちかさんのお母さん・みゆきさんです。ちかさんときみちゃんの「愛のキューピッド」であるてる子さんに、お礼を言いに来たといいます。
クリスマスも近いとあって、みゆきさんはてる子さんに、ツリーが描かれたお菓子をプレゼント。てる子さんも、みゆきさんへのお菓子を用意していたため、思いがけず「クリスマスのプレゼント交換」のような雰囲気に。
「久々に会った婦人会みたいなノリ…」てる子さんの一言で一気に場が緩みます。
しかし、2人の表情が引き締まる場面も。ちかさんときみちゃんについて、インターネットに書き込まれていた言葉の話になったときです。
「妊娠して子宮があるなら女だ」
「どういうことかわからない、気持ちが悪い」…。
てる子さんは、社会にまだまだ性のあり方の固定概念があり、「LGBT」という単語は広がっていても、当事者の姿として浸透していないと感じたといいます。「案外生きていて普通のカップルってあまりいないと思う。男女の組み合わせが多いだけで、どんなカップルでも紆余曲折があって普通じゃないはず」
わたしは正直、みゆきさんにも息子への葛藤や混乱があるだろうと、勝手に想像していました。ほかの取材で、「同性が好きだとカミングアウトしてから親と疎遠になってしまった」という人の声も聞いていたからです。
しかし、みゆきさんの反応は落ち着いていました。「私は普通がわからない。普通と言われている人達も考え方も違うし、どこをみて普通ってなるのかなって深く考えることがある」
■こころが男性どうしのふうふと、新しい命を見つめた連載「忘れないよ、ありがとう」