2022.04.01
育む「きんちゃん」こと、HBCの金城茉里奈(きんじょう・まりな)アナウンサーのトレードマークは・・・はじける笑顔!明日のあなたも笑顔になれるように、日々の取材で出会ったトレンド情報や、社会のお悩みを解決するヒントをお届けします。
今回のテーマは「母乳バンク」。母親から十分な授乳を受けられない赤ちゃんに、寄付された母乳を届ける取り組みです。
取材してみると、「母乳バンク」が笑顔にするのは、母乳を受け取る側だけではないことがわかりました。
「母乳バンク」を知らなかった私。その言葉を初めて聞いた時、いろいろな疑問が頭をよぎりました。
「どんな人が母乳バンクを必要としているの?」
「他の人の母乳を飲んでも大丈夫なものなの?」
「東京から離れている北海道でも関係のある話?」
「母乳バンクがあるってことは、粉ミルクよりも母乳の方が優れているということなの?」
母乳は人によって出る量や考え方に個人差もあるので、デリケートな話題でもありますよね。
そこで、疑問を解消すべく、詳しい方にお話を伺いました。
一般社団法人日本母乳バンク協会の代表理事・水野克巳さんです。
水野さんによると、母乳バンクでは、母乳がたくさん出る人がドナーとなり、余っている母乳を提供してくれるそう。
母乳は冷凍して保存しておき、登録している病院のNICU(新生児の集中治療室)に入院している赤ちゃんに届けます。必要としているのは、お母さんから十分な母乳がもらえない“1500グラム未満の赤ちゃん”や、“粉ミルクにアレルギーのある赤ちゃん”です。
水野さんは、「早産でお母さんの体が母乳を出す準備が整っていない場合や、お母さんが病気や治療の必要がある場合、母乳が出ない、出てもあげられないこともあります。小さく生まれた赤ちゃんに、生まれてすぐに粉ミルクを与えるのはリスクのあることなので、ドナーが提供してくれた母乳を与えます。新生児には、母乳が何よりの『栄養』であり、『くすり』 になるのです」と話します。
世の中には、特に母乳を必要としている赤ちゃんがいて、その赤ちゃんに十分な母乳を与えることができないお母さんがいる。そういうことだったのですね。
でも、他の人の母乳でも大丈夫なんでしょうか…?
率直な疑問をぶつけてみると、水野さんは「粉ミルクは牛の乳ですので、他人であっても同じ人間からのミルクである方が、安全だと考えます。赤ちゃんにとって大切な成分はどの母乳にも含まれています」と話していました。
なるほど、言われてみれば…。
ドナーになるためには、まず、自分の子どもが必要とする以上に母乳が出ることが絶対条件です。さらに、輸血や臓器移植を受けたことがない、血液検査に異常がない…など、厳しい基準をクリアする必要があります。
そのため、日本母乳バンク協会の紹介を受け、母乳の専門知識を持つ施設に足を運び、登録をします。
日本母乳バンク協会のホームページを見ると、搾乳の方法もかなり細かく示されていて、異物が混入されないよう厳重な管理がされています。
利用者としては安心ですが、ドナー側のお母さん、かなり大変なのでは…?ドナーからはどんな声が届いているか、聞いてみると、母乳バンクはドナー側の笑顔にもつながっていることがわかりました。
「小さい赤ちゃんを産み、頑張って自分の赤ちゃんのためにたくさん搾乳しても、大量に保存できる環境がなく、泣く泣く捨てなければならないこともあります。母乳バンクに預けることで、他の赤ちゃんの役に立ったことが、ドナー側のお母さん自身の力にもなった、という声が多く届いています。また、小さい赤ちゃんを産んで申し訳なく思ってしまったお母さんが、誰かを助けることで自分も救われた、という声もあります」
なんとも素晴らしい世界がそこにあるんですね。ちょっとでも「手間じゃないのかな」なんて考えてしまった自分を恥じました…。
母乳バンクのドナー登録者数、利用者数は、年々増えているといいます。しかし、北海道ではまだまだのようです。
ドナー登録者数は、全国で260人いますが、北海道では10人ほど。ドナーミルクを利用する病院は、全国で48施設あるものの、北海道にはありません。昨年、ドナーミルクを利用した赤ちゃんの人数は、全国で約350人にのぼりますが、北海道では0人です。(2022年3月現在)
北海道でドナー登録を受け付けている施設も、札幌市豊平区の「のえる小児科」のみです。のえる小児科の瀬川雅史院長は、「赤ちゃん、特に早産などで小さく生まれた子にとって、母乳は生存率や予後の改善に効果があることは明らかです。そうした子どもへの母乳の使用を広めるために、ぜひ母乳バンクに協力できる方はしてほしい」とコメントを寄せてくれました。
母乳の必要性や素晴らしさを知れば知るほど、ある疑問が頭をよぎりました。
「母乳神話」という言葉があります。「母乳じゃなければ赤ちゃんが健康に育たない」などという考え方です。母乳が出づらかったり、出産直後で授乳がつらかったりと個人差がある中で、「母乳神話」がストレスになるという話題も、耳にしたことがあります。
十分な体重の赤ちゃんであっても、粉ミルクより母乳で育てた方がいいのでしょうか?
母乳の「くすり」としての効果を語ってくれた水野さんに、おそるおそる聞いてみると、意外な答えが返ってきました。
「母乳で育てるということよりも、わが子を愛することが何より大切です。いっぱい抱っこしてあげてください。赤ちゃんはお乳が出る・出ないに関わらず、おっぱいを吸いにくると思います。それでおっぱいを吸わせて、仮に母乳が出なくても、おっぱいを吸ってくれたら、私はこの子の母乳育児をやったんだと十分胸を張っていいと思います。ほとんど粉ミルクで育てたからって、私は母親失格だなんて決して思わないでください。母乳を与えるだけが母乳育児ではありません」
母乳バンクの活動を通して、水野さんが伝えたいのは、「母乳の素晴らしさ」だけではなく、母乳が出る・出ないにかかわらず、赤ちゃんとお母さんを「社会で支える大切さ」でした。
「子どもがどんどん周りからいなくなっている現状がありますが、30年後・50年後、日本を背負っていくのは、きょう・あす、生まれてくる赤ちゃんたちです。その赤ちゃんたちに社会みんなで温かい目を向けて頂きたい。この母乳バンクの活動がさらに広まっていって、生まれてくるすべての赤ちゃんに社会の温かい目が向けられるようになっていってほしいです」
母乳バンクの内容から、どう社会で赤ちゃんを育てていくかまで、貴重なお話を聞くことができました。
ここまで読んでいただき、母乳バンクについて、少しでも理解は深まったでしょうか?
私はお話を伺ったあと、なんだか温かい気持ちになりました。
それは、母乳バンクに関わる人の、何よりも赤ちゃんを大切に思う気持ちが伝わってきたからだと思います。
私は子どもを育てた経験はないですし、将来子どもを持つかも、自分が母乳が出るかどうかもわかりません。ただ今回お話しを伺って感じたのは、水野さんもおっしゃっていた通り、もっと 「赤ちゃんをみんなの協力のもと育てる」世の中の流れができたらいいな、ということです。
もっと、みんなが積極的に関わっていっていいことであり、関わる“必要”があることなのだと感じました。それは実際に赤ちゃんと触れ合ったりすることはもちろんですが、母乳バンクのような制度を知る・理解することも、その一つだと思いました。
誰かの赤ちゃんのために…そんな優しい取り組みが、今後もっと広がっていきますように。
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母乳バンクについて、詳しくは「日本母乳バンク協会」のホームページからご確認ください。
https://jhmba.or.jp/
「きんちゃんの明日の笑顔さがし」前回の記事はこちら
→「生理が不快」「男性には言いにくい…」20代女性アナウンサーが考える、女性ならではの悩みとの向き合い方とは( https://sitakke.jp/post/2443/ )
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文:HBCアナウンサー・金城茉里奈