札幌市円山動物園は、2021年に70周年を迎えました!これを記念したSitakkeの連載、「円山動物園さんぽ」。
長く愛されてきた背景には、一度だけでは味わい尽くせない、見どころの多さがあります。「さんぽ」するように気軽に通うことで見つけられる、動物たちの深~い魅力をお伝えしていきます。
きょうは、「ヒグマ」について。円山動物園で2019年に行われた「北海道のシンボル動物道民投票」で、エゾモモンガやエゾリスを押さえ1位に輝いた動物です。ただ最近は、人身事故が相次ぎ「こわい動物」としてのイメージも広がってきています。
日々、身近にいる飼育員さんの目には、ヒグマはどう映っているのでしょうか?取材してみると、意外なギャップが見えてきました。
円山動物園には、現在、メスのとわ・14歳と、オスの大(だい)・11歳の2頭が暮らしています。
とわのほうが3歳年上ですが、体の大きさは、やはりオスの大のほうが大きく、体重は100キロ以上の差があります。特に冬は脂肪を蓄えているので、2月時点の体重はとわが150キロ、大は260キロ!4〜5人家族用の冷蔵庫がだいたい100キロなので、大は大型冷蔵庫2.5台分に相当します。大きいですね…!オスのヒグマは、大きい個体だと400キロほどになることもあります。
食べる量にも、メスとオスで大きな差があります。円山動物園では、メスは1日10〜15キロほど、オスは多いときで1日24キロも食べるそう!1日3食で、朝と昼にたくさん食べて、夕方は少なめにするそうです。
食べるものは、何だと思いますか?
飼育員の小林木野実(こばやし・このみ)さんによると、来園したお客さんにそう尋ねると、多くの人が「肉」「魚」と答えるそう。
ただ、実態は「草食に近い、雑食」です。
具体的には何を食べているのか小林さんに聞くと、「キャベツ、白菜、セロリ、もやし、ニンジン、さつまいも、じゃがいも、かぼちゃ、りんご、オレンジ、ぶどう…」とスラスラと教えてくれました。10種類以上の果物、野菜を食べているんですね…!いろいろな味を楽しめるようにしていて、煮干しやホッケをあげることもあるそうですよ。
あげるものは、季節によって変えるといいます。夏は葉物が多めで、秋になると果実が多め。野生で採れる食べ物と合わせているのだそうです。「ヒグマの生きるサイクルを野生に合わせて、本来の姿をお客さんに見てほしい」からだといいます。
食べ物は一度に渡すのではなく、広い範囲に少しずつ埋めるのだそう。これも、ヒグマ本来の嗅覚の鋭さを生かすための工夫です。さらに、1時間半ほど時間をかけて探し回ることで、楽しい時間を増やし、ヒマを減らすための工夫でもあるといいます。
「本来の姿」を尊重する工夫は、ほかにも。見つめる先にある、この木もそのひとつです。
ヒグマは木に背中をこすりつける「背こすり」という習性があるため、これをしたくなったらできるように木を用意しているのです。
また、冬眠に向けた準備を始めたときは、お客さんから見えない室内で、ゆっくりと休ませます。 無理にお客さんに見せるのではなく、ヒグマの体を大切にしているんですね。
動物園では食べ物が十分にあるため、冬眠しなくても冬を乗り越えられますが、個体差があり、今年度のとわは、12月ごろからお休みモードだといいます。
ヒグマは冬眠中、まったく動かないわけではなく、物音に反応して起きられる程度です。冬眠中の1月下旬ごろに出産して、まどろみながらお乳をあげるといいます。小林さんは、食べ物が十分でも冬にとわの休む時間が増える理由は、メスの体のリズムによるものかもしれないと話していました。
一方の大は、元気に歩き回ったり、水で遊んだりもしているそうですよ。
野菜や果物をモリモリ食べて、じっくり寝たり、遊んだり…ヒグマの暮らしを間近で見ている小林さんは、相次ぐ住宅地への出没や人身事故でヒグマのこわいイメージが広がっていることを、どう見ているのでしょうか。
「ヒグマにとっても、山に食べ物がなかったり、強い成獣のオスから逃げて安全に暮らせる場所を探していたりと、生きるための場所を求めているうちに住宅地に迷い込んでしまうんです。今、共存を考えるタイミングが来ていて、ヒグマと人が住み分けられたらいいと思っています」
一方で、小林さんもヒグマのことを「こわい」とも思うそう。小林さんが精一杯がんばってやっと動かせるくらいの丸太を、片手でひょいと持ち上げる姿を見ると、体格差や力の差を感じるといいます。
「こわいということも、感じながら作業するようにしていますね。こわがるのも大事だと思います。ただ、必要以上にこわがらずに、基本の生態を知ってほしい」
体が大きく力の強いヒグマは、走るスピードも速く、時速40〜50キロほど。人とは圧倒的な差があります。だから、「こわさ」を知って、住宅地に引き寄せない対策をすることも大切です。
一方で、ヒグマが主に食べるのは草類や果実などで、基本的には、食べるために人を襲うことはありません。性格は本来、「神経質で臆病」。人を攻撃するのは突然出会って驚いたときなどで、ヒグマのほうも自分が襲われると思って、身を守るためにやっているのだといいます。
小林さんによると、とわや大が、おなかを出して仰向けで寝る姿を見ることもあるそうです。「こわさ」とは対極の姿ですが、それが本来のヒグマの性格を表しているのかもしれません。
人とヒグマがお互いをきちんとこわがって、距離を保つことが大切…。円山動物園で穏やかに暮らすヒグマを見て、まずは正しく知るところから、始めてみてはいかがでしょうか。
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連載過去記事一覧:円山動物園さんぽ( https://sitakke.jp/tag/130/ )
クマ対策について知りたい方はこちら:「クマ」記事一覧( https://sitakke.jp/tag/237/ )
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