2022.03.12
深めるわたしが2人に出会ったのは、2020年9月。Sitakkeの連載「てる子のお悩み相談ルーム」でおなじみ、満島てる子さんが店長をつとめるバー、「7丁目のパウダールーム」でのことでした。ちかさんは、ここで働いています。
右から2番目の白塗りメイクが、ちかさん。「面白い」と言われるのが大好きなちかさんは、時には動物、時にはアニメのキャラクターと、毎日違うメイクで店に立ちます。
わたしはこの日、てる子さんを取材するため、店を訪れていました。デジタルカメラを片手に撮影中、ちかさんを、きみちゃんが迎えに来るところに遭遇したのです。
ちかさんが出勤する日は、ほぼ毎日迎えに来るというきみちゃん。時計はすでに午後11時をまわっていましたが、きみちゃんはメイクを落とすちかさんを、てる子さんたちと談笑しながらニコニコ待っていました。
わたしは大学で、「貧困」「障がい」など社会的に不利な立場とされる子どもや、その家族について研究をしていました。研究対象について考えるとき、指導教官はよく、「『わたしたち』と『あのひとたち』で分けられない」と話していました。
たとえば、ある日突然、事故にあったら。けがをして体の自由がきかなくなり、仕事も失い、お金に困るかもしれない。
そう考えると、いま取材をして目の前にいる人は、「わたし」と切り離すことができない存在で、彼らが直面している問題は、彼らだけに関係がある特殊なものではない気がしてくるのです。
それは、ちかちゃんときみさんに会うときも同じでした。
これまで異性だけを好きになってきた人も、突然、同性を好きになるかもしれない。誰だって、ちかさんときみちゃんが向き合う壁に、いつ自分が突き当たるかは、本当のところわからないのです。
小さく会釈をしてお店をあとにする2人の後ろ姿は、とても素敵で、心がトクトクしたのをいまも覚えています。そこにわたしは、性別がどうとかに関係のない、あたたかい何かを感じました。
■こころが男性どうしのふうふと、新しい命を見つめた連載「忘れないよ、ありがとう」