2022.02.24
育む子どもだけでなく大人も楽しめる絵本を、絵本セラピスト協会認定「大人に絵本ひろめ隊員」であるHBCアナウンサーの堰八紗也佳(せきはち・さやか)がご紹介します。
桃は桃でも、「ひなまつり」の絵本ではなく……「桃太郎」の絵本に注目します!
「むかし、あるところに、おじいさんとおばあさんが住んでいました。」といえば、誰もが桃太郎を思い浮かべるでしょう。おばあさんが川で拾った桃から生まれ、人々を困らせる鬼を鬼ヶ島まで退治しにいくという、日本で最も有名な昔話の英雄です。
桃太郎の誕生には諸説ありますが、基本的な物語の形は、室町時代に成立し、江戸時代中期ころから広く知られるようになったとされています。地域によって伝承のかたちが異なり、おじいさんとおばあさんが桃を食べて若返り、子をもうけた……という「若返り説」を伝承している地方もあるのだとか。
そんな「桃太郎」の絵本は、札幌の図書館にあるだけでも140冊以上!王道から変わり種まで、さまざまな作家による再話本「桃太郎」が存在することがわかりました。こんなに種類があるのですから、どれを選んだらいいか迷ってしまいますね。
今回は膨大な「桃太郎」の中から、筆者が気になった4冊をピックアップ!
同じ「桃太郎」でも少しずつ違いがあるので、読み比べてみるのも面白いですよ。
「これぞ、王道!」な作品がこちら。1965年に初版が発行されました。戦後に日本で出版された桃太郎の中で最も読み継がれているとされる作品で、現在も保育園や幼稚園でしばしば教材として使用されています。
『スーホの白い馬』で有名な赤羽末吉(あかば・すえきち)さんの絵は、力強さの中に優しさや温もりを感じます。
また、松居直さんによる文は、耳で楽しめる昔話独特の美しい語り口が生きています。
桃が川を流れてくるときの表現は『つんぶく かんぶく つんぶく かんぶく』となっています。「どんぶらこ」ではないことに驚きですね!
鬼をやっつけ、「命ばかりは助けてください」と涙ながらに訴える鬼を許してやった桃太郎。お詫びのしるしにと差し出された宝物を受け取らず、さらわれていたお姫様だけ取り返すという結末も、まさにヒーロー!
こちらも味わいのある絵です。大まかなあらすじは変わりありませんが、桃太郎が“なまけもの”で、少し“ケチ”な性格であることに、人間味を感じます。桃太郎は、いつもゴロゴロ寝ころんでいました。仕事を頼まれてはしぶしぶ山へ出掛ける毎日。悪い鬼の噂を聞いても、すぐには動かずしばらく寝転がって考えていました……が、何を思ったか突然むくっと起き上がり、鬼ヶ島へ向けて出発します。道中で犬や猿やキジに「きびだんごをひとつください」と言われても、必ず「ひとつはならん」と言って半分しかあげません。(百人力ではなく五十人力になってしまうのでは?)
最後は力を合わせて鬼を退治し、お姫様と山ほどのお宝を持って帰ってきます。「お宝を受け取るか・受け取らないか」という結末の扱いはよく議論になるのですが、“貰えるものは貰う”という桃太郎も、欲があって、ある意味人間らしいのでは……。
桃が流れてくるときの表現は『つんぷか かんぷか、つんぷか かんぷか』となっています。
『きんぎょがにげた』で有名な五味太郎さんの作品です。タイトルに「だれでも知っているあの有名な」という文言がついているのがポイント。だれもが知っていることを前提に、誰もが“知らない”であろう桃太郎のこぼれ話や裏話を、五味さんらしく付け加えています。
例えば、実は知られていないだけで「いもたろう」や「りんごたろう」もいたとか。猿と犬とキジ以外にも桃太郎にお供したかった動物がたくさんいたが、速足についていけなかったとか。鬼との闘いは、サッカーや鬼ごっこ対決もした、なんていう話も……!最終的にはみんな仲良くなって一緒に住むという平和な結末も、五味さんならでは。かなりの“変化球”なので、もともとの桃太郎のストーリーをきちんと知っている子どもや大人に、あえておすすめの一冊です。ちなみに、桃が流れてくる表現は「どんぶらこ どんぶらこ」で、だれもが知っている通りでした。
2019年に発行された、今回ご紹介した中では一番新しい作品です。西村敏雄さんの代表作は『もりのおふろ』や『どうぶつサーカスはじまるよ』などがあり、園児たちの学習発表会でも題材に使用されることがあります。絵のタッチすべてに丸みがあって、愛くるしく、とくに猿のほのぼのとした表情がたまりません。物語のあらすじで、さらわれたのがお姫様ではなく“子どもたち”であるという点が、他の絵本と違っています。
筆者個人的には、鬼は鬼らしく恐ろしい姿で描かれて良いと思いますが、子どもが怖い絵を見ると泣いてどうしても寝られなくなる……という場合は、このような作品も良いかもしれません。
桃が川を流れる表現は、「どんぶらこ どんぶらこ どんどんぶらこ どんぶらこ」。小さな子どもが喜んで声に出すリズムですね。
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今回は、膨大な桃太郎の絵本の中から、筆者が特に気になった4冊をピックアップしてご紹介しました。
物語の結末などに、作家よって少し違いがあることがおわかりいただけたと思います。
あなたが手に取ってみたい桃太郎の絵本はありましたか?
どの作品が正解ということではなく、次の世代の子どもたちに日本の伝統的なおとぎ話が“美しい日本語”に乗せて語り継がれていくことを願っています。
【参考文献】
昔話の語法(福音館書店) 著:小澤俊夫
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「連載コラム・今月の絵本通信」
文|HBCアナウンサー 堰八紗也佳
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