2025.09.26
深めるさてBeniさんの相談の核は、前半で書いてきたような混乱を経たあと、「人はどうやって自分の物語を再構築していけるのか」というものでしたね。
この質問、あたしは「なるほど。丁寧に答えたいなぁ」と思うと同時に、「とっても回答するのが難しいなぁ……」とも感じました。
「物語」というのは、本来言葉にはしきれないほど豊かな誰かのいのちのあゆみ、そこに一定の切り込みを入れ輪郭をつけることで、一種描写しやすくした「物」(対象)と変え、それに対して「語り」を与えることによって生じます。
なので切り取り方や語り方に、もし偏りがあった場合、その物語は誰かを傷つける武器となってしまいかねません。
なんなら、他者の物語をかき消す力も持つ場合があります。
実際にフェミニズムでは、これまで紡がれてきた歴史(History)について、それは男性中心主義的な物語(His story/訳:彼の物語)であり、女性の存在を無化してきたのではという批判が、幾度となく展開されてきました。
LGBTQについても、あたしは同じことが言えるのではないかと思っています。
異性愛中心的な物語が溢れかえる世の中で、自分たちの物語は常に侵食され続け、消され続けている実情があります。
そんな現状があるなかで、マイノリティたちは自分の物語を再度作り上げることが、どうできるというのか。
これは困難な問いです。
生きていくために紡ぎ直した物語が、また誰かによって汚されてしまうかもしれない。
投げ捨てられてしまうかもしれない。
または、自分の物語が誰か別の人の物語に、同じような影響を与えてしまうかもしれない。
その恐れから、あえて自分の人生を「物語化」しないことに努める人も、最近コミュニティの中にも一定数いるように、あたしは感じています。
ですが。
おのれの生き様を「物語」として産み直すことで、ゲイである自分を受け入れることができるようになった身としては、やはりBeniさんには「ぜひ自分の物語、積極的に紡ぎ直してみてね」と、その背中を押したくなるのよね。
そして、その再構築の仕方としては、まずもって「実際に語ってみること」「語ることのできる場所/語ろうとする人々の集まる空間を訪ねること」をオススメしたいなと、切にそう思うんです。
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