2025.09.17
出かけるワークショップ講師の納谷真大(なや・まさとも)さんは「戯曲はあくまでも設計図です。これを3Dとして立ち上げたときにおもしろくなればいいんです。」と言います。
この言葉どおり、稽古が進み、動きやセリフが立ち上がっていくとともに、自信を持って「これはおもしろい!」と言える作品になっていることを感じています。
毎日の稽古は、体力的にも精神的にも苦しいものがありますが、それ以上に“このチームでおもしろいものを創り上げたい”という思いに奮い立たされ、刺激的な毎日を過ごしています。
本格的な稽古が始まってからの私は、寝ても覚めてもずっと演劇のことが頭から離れず、不安に襲われていました。憧れの演技ができる喜びとともに、自ら飛び込んだ未知の世界についていくのが精いっぱいで、焦る日々…。
この不安を払拭して本番を迎えるためには、私は他の人の何十倍も努力して、食らいついていくしかないんだ…!
そんな心境の中、忘れもしない8月30日の稽古で、私は不思議な体験をしました。
この日は、“壊れたルカが復活する”という、ルカにとって特に重要なシーンの稽古。
畳みかけるような長いセリフが繰り返されます。
自分自身と、そのシーンでのルカの“焦り”の心情が重なったのでしょうか。
とにかくもう無我夢中で演じていました。
セリフは少々間違えていたらしいのですが、そんなこと全く気づかずに…。
終わったあとは、かなりのエネルギーを消耗した感じで、グッタリ…。
午後10時に稽古が終わって、夜空を見上げながら「今日は特に疲れたけれど、なんかすごく楽しかったし、気持ちよかったな~」と振り返りながら帰宅したのですが…。
翌日、稽古に行くと、思いがけず納谷さんからお褒めの言葉をいただきました。
「昨日のあの演技、素晴らしかったです。堰八さんは、きっと憑依型の俳優さんなんですね…。あの瞬間、堰八紗也佳さんはいませんでしたよ」
確かに、あのとき私は、いつの間にか、物語の中に入り込み、天界の使者・ルカとして本当に存在しているような感覚になっていたのです。
納谷さんは、「何度もきのうの動画を見返しました。どこでスイッチが入ったんだろうとか考えながら…。長年、俳優をやっていても、なかなか辿り着けないゾーンだと思う。本当に感動した。夢にまで出てきましたからね(笑)。あの体験を一度でもできたことは凄いことだと思う。ああいう状態になると、身体の動きも自然で気にならないんですよ。この先、迷ったり困ったりしたときは、あそこを目指すといいですよ」と話してくれました。
この言葉に、私は心が救われました。
努力をすれば、私の中にも“俳優としての可能性”みたいなものがあるのかもしれない。不安を感じずに、遠慮せずに、思い切って演劇に挑戦していいんだ!と思うことができました。
今回、ルカはダブルキャストで、全6ステージのうち3ステージで私、ほか3ステージではフリーの舞台俳優・五十嵐みのりさんが演じます。
実は、唯一違う演出がついているシーンがあります。私には“アナウンサーであることを最大限に生かす演出”が付いているのです。これも、楽しんでいただけるポイントのひとつだと思います。
また、逆にアナウンサーとしては考えられないような荒々しい言葉を遣ったり、悪態をついたりする場面もあります。そういう役柄なので、嫌いにならないでくださいね(笑)
心が技術を上回ったときに、人を打つ。
納谷さんからいただいた中で、最も印象に残っていることばです。
この言葉を胸に、精一杯演じ切ります!
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