かつて巨大な倉庫があった函館市大町の一角。ここにホテル・飲食店・物販店が入居する複合施設が2025年以降に開業するというニュースが今夏メディアを賑わせた。
その企画・運営を担うのは広島と東京に拠点をおく株式会社Staple(ステイプル)の子会社である株式会社Staple函館。この計画自体は昨年から動いており、建設予定地の現地視察もすでに行われていた。その際、予定地の向かい側にある一軒の古建築が同社担当者の目に止まった。調べてみると、どうやら売りに出されているということがわかり、すぐに仲介元に問い合わせ、目にも止まらないスピードで購入を決めた。
「でもその時点ではこれを何に使うか、どうやって使うかはまったく決まってなかったんです」と笑いながら振り返るのは、株式会社Staple函館の園部優樹さん。社内検討の結果、ここを一棟貸しの宿にすることに決め、前述の複合施設に先駆けて今年1月に開業までこぎつけた。
いわば“予定外”で生まれることになった、この『ポートサイドインハコダテ』。会社を突き動かしたのは、やはり建物自体がもつ魅力だ。
ここは1885(明治18)年に廻漕業者だった旧遠藤吉平商店が新築したとされる建物。明治初期建造の建物が数えるほどしかなくなった西部地区でも、かなり貴重な物件として建築関係者や不動産会社の間では知らない者はいない市の景観形成指定建築物で、130年以上の間、倉庫や飲食店として使われてきた。
ここを宿泊施設としてリノベーションするにあたり、建築当時の状態で残っているレンガ壁に漆喰を塗った石造り風の外観はそのままに、さらにアーチ窓や2F天井の梁など元の部分を極力残しながら、あとは現代風にアレンジ。
■【函館】光と影、今と昔が交錯する「朽ちていく美」の異世界。
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