2021.09.16
ゆるむ札幌市円山動物園は、ことし70周年を迎えました!これを記念したSitakkeの連載、「円山動物園さんぽ」。
長く愛されてきた背景には、一度だけでは味わい尽くせない、見どころの多さがあります。「さんぽ」するように気軽に通うことで見つけられる、動物たちの深~い魅力をお伝えしていきます。
今回ご紹介するのは「スンダスローロリス」です。そのつぶらな瞳から伝わるのは、「かわいさ」だけではありません。
体長10センチから30センチほどで、赤みがかった毛におおわれたスローロリスは、「スロー」と名前についているとおり、ゆ~っくりとした動作が特徴的です。果物や樹液のほか、虫を食べるため、獲物に見つからないようにゆ~っくりと動くそうです。
「ロリス」はオランダ語で「道化師」の意味で、手足でしっかり枝を握りながら自由自在に動き回ることに由来しています。
たしかに、進行方向に関係なく、木の枝をぎゅっとつかんでしっかり進んでいます。器用にエサをつかんだ後、ちょっと酸っぱかったのか、目をすぼめる姿がなんとも魅力的ですね…!
飼育員の沖野絵美(おきの・えみ)さんは、「1頭をペットショップに並べるために、何倍ものスローロリスが命を落とした」と話します。
スローロリスは、ペットや漢方薬の材料という目的で密猟され、生息数が激減しました。2007年からは、絶滅のおそれがある野生動物の種に関する国際的な条約である「ワシントン条約」でもっとも厳しい附属書Ⅰに掲載され、原則的に国際取引が禁止されています。
それでも密猟・密輸は絶えず、円山動物園にいる8頭の中にも、密輸から保護された子が3頭います。ほかの5頭も、親が保護された個体など、ルーツには密輸が関係しています。中には、右目がつぶれてしまった子も。
沖野さんによると、スローロリスは夜行性のため、密猟者は暗い中、目が光ったところを狙って石を投げると言います。その石が目に当たって失明してしまうケースもあれば、密輸のために薬を打たれたり、布でくるまれたりと強いストレスにさらされ、密輸先に到着することには命を落としているケースも多いといいます。
沖野さんは「円山動物園にスローロリスがいることには大きな意味がある。最初は『かわいい』からでいいが、この子たちがここにいる背景を考えて見てほしい」と話します。
希少な動物を保護するだけでなく、繁殖方法を検証して、種を維持していくのも、動物園の大切な役割だといいます。
スローロリスの繁殖方法はまだあまり解明されていませんが、円山動物園では繁殖がうまくいっていて、全国の動物園に円山動物園生まれの子がいるそう。ほかの園からもアドバイスを求められる存在です。
沖野さんは、「日本の動物園全体で協力して個体数を増やしたい」と力強く語ります。全国の動物園で飼育されているスローロリスは20頭ほど。同じ動物園の中で繁殖すると血が濃くなるため、ほかの動物園から迎え入れたり、貸し出したりしています。
今ではスローロリスの存続まで意気込む沖野さんですが、幼いころから動物が大好きで、動物園で働くのは小学生からの夢だったそう。
「かわいい」と思っても、「飼いたい」と思う前にじっと見つめてほしい、スローロリスの大きな瞳。円山動物園で動物の魅力に心惹かれたら、その種の将来のことまで、立ち止まって考えてみませんか。
次回は、知名度が高いようで、じっと見ているとまだまだ新発見もできる動物をご紹介します。お楽しみに!