一方、染物についてはまだ学び始めたばかりだ。まず最初に着手したのが栗のイガを使った染色。彼のアトリエはもともと祖父の代から使っていた木造の牛舎で、その敷地内には古くから大きな栗の木が立っている。そこから落ちた栗をつかって染色を試みたのが最初だ。
「黒い染料となる材料を探していて、本来なら染物の世界ではポピュラーな矢車附子(やしゃぶし/ハンノキ科の落葉高木)を使うところなんですが、北海道には生育してないんです。だったらアイヌの人たちは昔どんなものを使って衣服を染めていたのかと調べたら、栗のイガを使っていたことがわかった。で、作業場の目の前には栗がたくさん落ちている。うれしい偶然でしたね」
そして次に挑戦した染料が前述した昆布だ。アベさんは今年8月はじめからおよそ1ヶ月間、末広町の複合施設『航路 – kohro -』にてロングランの展示販売会を開催。その企画段階で施設のオーナーである建築家の富樫雅行さんから漏れ出た「昆布って染料になるのかな」という一言がきっかけだった。それ以来、イベントでの作品(商品)発表を目指して試行錯誤を重ね、会場には昆布染めによって味わいのあるキナリ色に染まった麻のボタンダウンシャツやブラウスなどがお披露目された。
「昆布染めに関してはまだ始まったばかりなので、技術的にはまだまだです。この先の目標としてはただ染めて終わりではなく、素材を循環させること。まさに栗がそうなんですが、染料として使い終わったイガをすり鉢でつぶして土に還すんです。そうするとまた新しい栗の木の芽が生えてくる。昆布も同じように使い終わったら牛の餌として与え、その牛から出た排泄物が堆肥になって土の栄養となる。一人ではできないことなので賛同してもらえる人たちと協力しながら、服づくりに始まり漁業や酪農の循環につながる流れをつくれたらなと思っています」。
【アベ ショウマ】
Instagram @reborn_integral
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『peeps hakodate』vol,129「服と函館。」より
■【函館】光と影、今と昔が交錯する「朽ちていく美」の異世界。
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