レンガの柱を基調としたインテリアに、インベーダーゲームのテーブル筐体。メニューを開けば「パスタ」ではなく「スパゲッティ」の表記。そして甘味に目を移せば「ショコラサンデー」や「ア・ラ・モード」などが名を連ねる。昭和48年創業の『巴山』は、中に足を踏み入れた途端に昭和の香りが濃厚に漂う場所だ。「始めた当時はピザを出すような喫茶店はおそらく他になくてね。そのときは新しいことをしてたのよ」と笑う店主の水間春江さん。最初15坪程度で始めたという店は時代とともに変化し、いつしか函館きっての大箱の喫茶店へ。「私たちも年をとったけど、お客さんも年をとったからね」いつも子どもを連れて来ていた客が、年月を経て今度は孫も一緒に連れてくることも珍しくない。
さて、本題のフロートである。レトロな店内に一際映えるヴィヴィットな色合いのメロンやブルーハワイなどのソーダの上に、ソフトクリームをたっぷりしぼる。昔から一切変わらぬその姿に、「昭和レトロ」の一言ではくくれない老舗喫茶店の“あって当然”の気持ちが見える。
【珈琲専科 巴山】
北海道函館市富岡町2-36-19
0138-41-6221
その形は三日月のようであり、餃子のようでもある。いずれにせよ函館で【中華まんじゅう】といえば、豚まんでもあんまんでもない。こしあんがぎゅっと詰まったこのお菓子のことだ。函館では通夜や忌中引の引き出物に使われることが多かったことから、かつては菓子職人の間で“葬式まんじゅう”と呼ばれていたとも聞く。一昔前までは和菓子屋や餅屋にいけば大抵この中華まんじゅうが扱われていたが、いまは数えるほどしかなくなった。
1900(明治33)年創業の餅屋『丸井 栄餅本店』は、昔も今も変わらずに中華まんじゅうをつくっている貴重な店。しかも、たっぷりと手間がかかっている。保存料は一切なし、生小豆からの餡づくりに1日、生地をつくって寝かせるのに1日。ようやく店頭に出せるのは3日目からだ。「引き出物は急な仕込みを強いられるから、うちのは向いてないの(笑)。でもこれを店に置いとくとお客様が懐かしがってくれるんです。それが嬉しいんですよね」(4代目店主・佐藤秀昭さん)
【丸井 栄餅本店】
北海道函館市栄町5-13
0138-22-5482
『peeps hakodate』vol,128「昭和99年の函館より。」から
■【函館】光と影、今と昔が交錯する「朽ちていく美」の異世界。
道南の記事一覧:【道南のお気に入りを見つけたい】