2024.10.15
深めるその後も、わたしは何度か2人の家を訪れています。
羅希ちゃんがいた部屋には、骨壺が置かれていました。わたしが抱っこしたときに着ていたパーカーが、脱ぎっぱなしのように、置かれたままになっていました。絵本やお菓子は、増えています。
「おもちゃを見たら買ってしまったり、まだ実感がない」
「パーカーは洗うことができてなくて、もう少し時間がかかると思う」
きみちゃんは、仏壇の方を見つめながら答えました。
大晦日に会ったときも、不自然に笑顔が多かったきみちゃん。「我慢したりしていた?」と尋ねました。
きみちゃんは小さくうなずきました。
「何回も泣いたのが事実。診察・診断されて、ちかさんに連絡したときも、入院してすぐの夜にも泣いた。出産後にも泣いた。あとは出棺のときも、まわりの人が声をかけられないくらい、めちゃめちゃ泣いてしまった。今でもやっぱり、夜になると寂しくなってしまう」
そして懐かしむような表情で、こう続けました。
「愛おしかったです。自分のからだにいた、一緒に生を感じていた。やっと会えたなって言う気持ちでした」
ちかさんは、言葉を選びながら、ゆっくりと話しました。
「やっぱり出産ってなったときに、自分は何もほとんどできなかった。きみちゃんは涙もろかったりするから、支えてあげなきゃと思う」
「まずはおつかれさまっていう言葉と、これからもよろしくお願いしますっていう思いでいます」
きみちゃんは、ちかさんと付き合う前は、男性ホルモンを注射してからだを男性に近づけていて、性別適合手術も受けるつもりでした。しかしちかさんと話し合い、2人の子どもを産みたいと考えて、中断していました。
しかし、妊娠・出産は、からだが女性であることを強く意識させます。そこに葛藤はなかったのか…。
ずっと聞けずにいた疑問を投げかけると、きみちゃんは今まででいちばん、真っすぐにわたしの目を見つめて、抱えてきた想いをひとつひとつ明かしてくれました。