2024.10.15
深めるきみちゃんとちかさんが一緒に過ごすクリスマスは、3回目。きみちゃんは「外出してのクリスマスデートは初めて」と、照れくさそうに笑います。
そんな大切なデートに、デジタルカメラを持ってついてくるわたしを、2人は快く受け入れてくれました。
「僕たちの生き方を伝えることで、ひとりでも多くの人が生きやすい環境をつくることにつながっていけばいい」取材を始めてから、何度か伝えてくれたその言葉に、わたしは「2人が社会の中で感じる壁だけではなく、幸せな瞬間も伝えていきたい」と、決意を固め直します。
「2人で過ごすクリスマスは最後ですね」と声をかけると、ちかさんは「そうだ!でも、にぎやかになるからいいね」と、きみちゃんに明るく笑いかけました。
きみちゃんは、「自分は人と付き合うのが初めてだから、その前は、自分は好きな人と付き合えないと思っていた」といいます。ちかさんと過ごす今は「まあ…幸せですね」と、はにかむ姿を見ていると、わたしまで幸せな気持ちになりました。
イルミネーションを楽しんだ後は、ちかさんが予約した狸小路の近くにあるダイニングバーへ。3~4人のグループが盛り上がっているテーブル席を通り過ぎ、2人で静かな時間を過ごせる、半個室のソファ席に入りました。
「じゃあ、メリークリスマス」
乾杯の後は、プレゼント交換です。きみちゃんは、ちかさんにキーケースを贈りました。
「家の鍵を裸のまま持っているから…」きみちゃんの指摘に、ちかさんは苦笑い。きみちゃんは普段から、ちかさんをよく見ているのだなと、愛情を感じました。
ちかさんがきみちゃんに手渡したのは、絵本でした。きみちゃんが羅希ちゃんのために、絵本をたくさん買い集めているのを見ていたからです。
きみちゃんは、「これ、買おうか迷ってた!」と声を弾ませます。
タイトルは、「王子と騎士」(作:ダニエル・ハーク、絵:スティーヴィー・ルイス、訳:河村めぐみ、出版社:株式会社オークラ出版)。
ある国に、もうすぐ王位を継がなくてはいけない王子がいます。花嫁探しの旅に出た王子は多くの娘たちと出会いますが、自分が思い描く相手とは少し違う気がしています。しかしやがて王子は、ある騎士に出会うのです。
きみちゃんは、「男同士の恋愛の絵本。今もう何冊か同性愛を描いた絵本を買ってあって。海外だと自然に書かれているけど、日本ではなかなかない」と教えてくれました。
2人は、羅希ちゃんが成長する中で抱える悩みや葛藤を減らしたい、解決の手助けができるような準備をしたいと考え、この絵本が欲しかったといいます。
2人だけの時間も過ごせるように、わたしは食事の途中で退席しました。店の外は雪景色でしたが、わたしの心はあたたかく、少し沸き立っていて、「羅希ちゃんがこの絵本を読む瞬間にも立ち会えたらいいな」と考えていました。