2024.10.13
深めるこの日の健診では、赤ちゃんはエコーでもわかるほどぐいぐい動いて、3Dにすると鼻や口、握りこぶしまではっきりと見えました。元気に動く赤ちゃんの様子をみて、きみちゃんは笑い声をあげることもありました。
きみちゃんとちかさんは、健診の後、病院の近くにある洋菓子店を訪れました。ちかさんはスイートポテトとリンゴジュース、きみちゃんは生チョコレートのケーキとホットミルクを注文しました。
注文したものが運ばれてくるまでの間、2人は撮ったばかりのエコー写真に釘付けです。
「誰に似てる?」「ほっぺのたれ具合がきみちゃんに似てる」。
ケーキが運ばれてくると、わたしの目の前で1口づつ「あーん」を繰り広げます。その雰囲気は、目の前のケーキを凌駕するほどの甘さで、見ているこちらも思わず笑みがこぼれました。
取材中、パートナーのちかさんが、きみちゃんと同じ目線で、妊娠と向き合おうとしていたことが印象的でした。
健診の日はできる限り仕事を休んで、付き添っていました。エコーに映る赤ちゃんの元気な様子をみて安心したり、逆子のため出産予定日が変わるかもしれないと聞くと、診察室のカレンダーを見ながら医師に質問したりと、きみちゃんと一緒に一喜一憂しているように感じました。
「妊娠・出産は女性だけのものではない」 。これは、こころが男性で妊娠したきみちゃんからだけではなく、ちかさんの姿勢からも、わたしが学んだことです。
ちかさんは付き添うことで、赤ちゃんの成長を実感しているように見え、きみちゃんはひとりのときよりも、心の葛藤が和らいでいるように見えました。
それぞれ事情や考えがあるので、「絶対に誰かが付き添うべき!」と言えるものではありませんが、妊娠・出産は、おなかに命を宿した本人だけのものではありません。例えば職場は、「付き添いたい」というパートナーの希望をできるだけ叶えられるようにするなど、社会全体で妊娠している人を「ひとりにしない」 姿勢が大切なのではないでしょうか。
もし、あなたが妊娠して入院したとき、同じ病室に「妊娠中の男性」がいたらどう思いますか?「その人は個室に入るべき」と思うなら、そのお金は、本人、病院、行政…、誰が負担すべきだと思いますか?
新しい命の存在が、わたしたちに問いかける課題です。