2024.10.17
深める9月15日に行われた、「さっぽろレインボープライド」。
性の多様性について多くの人に知ってもらい、差別の解消などにつなげようと、当事者や支援者らがパレードをしました。1000人以上が参加し、過去最多の人数を更新しました。
「きょうは、いまお気に入りの女性アーティストの格好を真似してみました」
日によって、こころが女性のときもあるちかさんですが、この日は久しぶりのスカートです。
ちかさんときみちゃんは共働きなので、みぃくんは保育園に通っています。ちかさんは「送り」の担当、きみちゃんは「お迎え」の担当です。
実はちかさんは、みぃくんと向き合う時間をもっと確保するために、半年前にある決断をしていました。
3月30日の、午後6時半すぎ。わたしは、カメラマンと一緒に札幌・すすきののはずれにあるバー「7丁目のパウダールーム」に向かいました。この日でちかさんは、6年間勤めたこの店を卒業することを決めていました。
これまでも独創的な格好をして、お客さんを楽しませてきたちかさん。午後7時の開店を前に、おもむろに白のファンデーションを指にとり、顔全体に塗っていきます。
「最終日、白塗りなの?」
店長の満島てる子さんは、すかさずつっこみます。
ちかさんは、「下地は、キャンバスにしようと思って。三つ葉を書いて、四つ葉を1個だけにしてみんなに探してもらう。見つけた人が幸せになるみたいな」と、はにかみながら答えます。お客さんを幸せにしたいという、優しい思いが込められていました。
てる子さんをはじめ、この日の店のスタッフたちのドレスコードは「黒」。卒業や誕生日などその日の主人公がいる場合は、他のスタッフは黒服に徹するというのが、バーなどでは鉄則だといいます。
「きょうまで、おつかれさまでした…」
店の後輩たちが、メイク中のちかさんにお礼の品を渡しに来ました。
いまこの店に所属しているスタッフは、ほとんどがちかさんより年下です。ちかさんが6年前に店に入ったときは同世代の仲間がほとんどでしたが、新しい人生に進むために2~3年ほどで次々と卒業しています。
メイクの下地に使うベビークリームや、チョコレートなど、ちかさんが喜びそうなものがプレゼントされます。店長のてる子さんからは、色とりどりのタオルが贈られました。
「家族で使えるバスタオルとか、赤ちゃんのおくるみにも使えるやつ」
「わーすごいレインボー!!もうどうしよう、ずっとお世話になってばかりで…」
感激した様子のちかさんに対し、てる子さんは「ほんとよね!たくさん世話したよね、私たち。この人が酔いつぶれているときとかさ~!」と後輩たちを巻き込んで、笑顔を誘いました。
店の後輩の1人、魔ァ子(まぁこ)さんです。初めて客として店に来たとき、店番をしていたのが、てる子さんとちかさんだったといいます。
「Xを交換して家に帰ったら、ちかさんから『きょうありがとう、よかったらまた来てね』とメッセージをもらった。次も行こうかなと思って、気が付いたら働いていた。ちかさんがいなかったら私はここにいない」
ちかさんは照れながらも、「魔ァ子は次のスタッフのリーダーだから」とわたしに紹介。魔ァ子さんは、「やだ~!そんなこと、絶対思っていないのに!」と飛び切りの笑顔で返します。
ちかさんの独創的な格好は、東京で活躍するドラッグクイーンたちもちかさんに会いに店に来店するほど、注目されています。アニメのキャラクターや、ときには日用品や野菜などにも変身します。
店のカウンターには、これまでのちかさんの「女装」写真をまとめた「顔面美術館」というタイトルの冊子も置かれています。常連のお客さんがつくってくれたものです。
後輩のみゆさんは、スタッフとして働く前からXでちかさんに注目していたといいます。「すごいメイクをする人だなと…。初めて出勤で一緒になったとき、予想外にちかさんがおとなしい方だったので、ギャップに驚いて」
「次は、みゆさんがこういうメイクをしてみるのはどうか」とわたしが聞くと、「ちかさんはもうレジェンドの枠なので、あのメイクの枠はもう永久欠番です!」と、笑いながら首を横に振りました。