2024.08.30

深める

【函館】光と影、今と昔が交錯する「朽ちていく美」の異世界。

本筋からは外れるが、ぜひ触れておきたいことがある。計良さんの父・嘉宏さん(故人)は、地元企業に勤める会社員だった。家には計良さんを含め4人の子どもがいて、全員を大学に行かせるには当時の収入だけでは厳しかった。
そこで副業を思い立ち、1963(昭和38)年に開業したのが大門にあった『太陽模型店』だ。昭和の時代、函館の模型愛好家にとっては聖地といわれた名店で、プラモデルブームが到来するたびに店は子ども達でごった返していた。

「でも親父が店に関わっていたのは最初だけで、その後は最後まで母親が店を切り盛りしていました。わかる人にはわかると思いますが、いつも店にいたあのおばちゃんが、わたしの母なんです(笑)」。

一昨年までは東京で仕事をしていた計良さん。しかし母親の介護をすることになり、およそ50年ぶりに函館へ戻って生活している。

「東京が大好きだから、本当はまだ帰ってきたくなかったんだけどね(笑)。こればかりは仕方ない。人生いつ何が起きるかわからないってことです」

現在は介護のかたわらデザインの仕事を続けながら、函館に戻ってからは積極的に風景写真をインスタグラムに投稿するようになった。計良さんここで主に公開しているのは、「まちの裏側」を切り取り HDR(ハイダイナミックレンジ加工)を施した写真の数々。

この加工は、写真の白トビや黒つぶれを排除し、明るいポイントと暗いポイントを同時に階調を残して表現できる写真の表現技法。特に建造物の写真撮影でその効果を発揮することで知られているが、その撮影対象が廃墟であればよりドラマチックな画に仕上がることが多い。
人が出入りしなくなって久しい廃屋や廃ビル、経年劣化を重ねて“いい顔”になった現役の家屋や工場、店舗などを撮影し、サビや汚れなどの経年変化を加工技術で強調しつつ、彼独自の美的基準で仕上げていく。

「そもそも廃墟は大好きで、マニアといってもいいくらい。当然、地元に帰ってきてすぐに『恵山モンテローザ』の跡地にも行きました(笑)。人間って生まれてから死ぬまで、建物で暮らしたり仕事したりするわけじゃないですか。そうすると、当時そこにいた人の営みだったり、生活の歴史だったり、そういうものが残ってるんですよね。何かが染みついているというか、暮らしの残像みたいなものが確実にそこにある。それを画として残したいという気持ちはあります。時間の移ろいを記録する感覚ですね」
 東京でも函館でも、都市の表側も裏側も見てきた。光を浴びた表側の美しさがある一方で、影の中でじっと息をひそめるように佇む裏側にもまた別の美しさがある。計良さんが、そんな「朽ちていくもの」に向ける視線には、独特の優しさとあたたかさがある。

peeps hakodate

函館の新しい「好き」が見つかるローカルマガジン。 いまだ開港都市としての名残を色濃く漂わせる函館という街の文化を題材に、その背後にいる人々を主人公に据えた月刊のローカルマガジン。 毎号「読み物であること」にこだわり、読み手の本棚にずっと残り続ける本を目指して編集・制作しています。(無料雑誌・月刊/毎月10日発行)

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