9月に入り、ふと気が付くと「読書の秋」がやってきましたね。
今月の絵本通信は、札幌市新発寒にある絵本専門店『ちいさなえほんや ひだまり』の店主に聞いた
大人も子どもも楽しめる、秋に読みたい絵本4選です。
住宅街にひっそりと佇む一軒家の書店。札幌市新発寒にある『ちいさなえほんや ひだまり』は、“靴を脱いでくつろいで”がコンセプトの絵本専門店です。「おじゃましま~す!」と言って靴を脱いで入っていくと、優しい笑顔で迎えてくださったのは、店主の青田正徳(あおたまさのり)さん。
親戚の家に遊びに来てくつろいでいるような感覚で、ゆったりと絵本に親しめる空間です。お店に置いてある絵本は約2500冊。
年間1000冊以上の新刊絵本が出版されていることを考えると、かなり厳選されていることがわかります。
青田さん自身が手に取って声に出してみて「良い!」と思ったものだけを仕入れているのだそう。
青田さんは「心の栄養のためにも、日常のおやつのような感覚で気軽に絵本に親しんでもらいたい。」と話します。
子どもや孫に何を選んでいいかわからないという声に、丁寧に答えてくれるお店です。今回は、そんな青田さんに、おすすめの絵本とその理由をコメント頂きました!
秋は十五夜もありますから月を見上げる機会が多くなりますよね。
どんなに離れて暮らしていても、なかなか会えなくても、月が綺麗な日は、みんなひとつの月を見ています。
それぞれの暮らしの中で、みんなが同じ月に照らされて生きているようすを描いた本です。
特に最後のページを開くと、ぽっかり浮かぶ満月の絵、そして「ごほうびのようなおつきさま」というシンプルな一文が心に刺さります。
日常の“あたりまえ”の存在である“月”も、気持ちが変わると「ごほうび」にのように見えてくるのですね。
喜びは何気ない日常にありますが、普段はなかなか気づくことができません。そのことに気づかせてくれるきっかけのひとつが「絵本」なのではないでしょうか。
秋になると鮭は、卵を産むために川を上って自分が生まれた場所に帰ってきます。
天敵から逃れ、滝を乗り越えて、無事に産卵を終えると死んでしまい、
そのからだはどこかで次の栄養になっていきます。鮭は、命がけで命を宿しているのです。
秋の味覚である「いくら」もそのひとつひとつが命であり、命は巡っているということを感じさせてくれる北海道を舞台にした絵本です。
作者のきくちちきさんは、十勝の本別町生まれ。ブラティスラヴァ世界絵本原画展で受賞した世界的にも大注目の作家です。
きくちさんは原画を大きく描くのが特徴。それを本にするので、大胆な構図の迫が残ります。
「色はおまけ」というくらい、線が活きていて、線だけでも十分に動きや表情を出していますが、それに加えて、この作品は色彩も素晴らしいのです。
左右両面のページを使って、あっちもこっちも、一面に燃える赤いもみじのページは圧巻!秋がくれる贈り物です。冬になると対照的にまっ白な世界になりますね。
春はピンク、夏は緑というように、自然は私たちにいつもさまざまな色でメッセージを贈ってくれているのです。
作者は、2016年に歌手としては初めてノーベル文学賞が授与されたアメリカのボブ・ディランさん。
1974年に発表された『フォーエバー・ヤング』は全世界で歌い継がれている名曲のひとつ。その歌詞が絵本にもなっています。
『フォーエバー・ヤング』はボブ・ディランさんが自分の息子に向けて「ずっと若々しく希望に燃えて生きてほしい」と願って書いた曲だそうです。
その原文も素晴らしいのですが、さらに、日本語訳が素晴らしいのです。
タイトルである『フォーエバー・ヤング』は、『はじまりの日に』という訳になっています。
「毎日がきみのはじまりの日」という言葉は、子の幸せを願う気持ちだけでなく、全ての人への応援メッセージとして受け止められ、多くの共感を呼ぶ作品になりました。
絵本にすることで、みんなで共有できる広がりを持った作品に再創造されたのです。
音楽にあまり親しみのない人にもおすすめしたい、郷愁に浸るにぴったりな、「芸術の秋」に読みたい一冊ですね。
【取材協力】
「ちいさまえほんや ひだまり」
住所 札幌市手稲区新発寒6条5丁目14-3
電話FAX 011-695-2120
営業時間 午前10時~午後7時
営業日 金・土・日・月・祝
きくちちき絵本原画展 期間7月2日(金)~9月27日(月)
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今月の絵本通信は、絵本専門店の青田店主に聞いた「秋に読みたい絵本4選」でした。絵本を読んで、実りのある秋になりますように!
文|HBCアナウンサー 堰八紗也佳
HBCラジオ アフタービート では絵本セラピスト協会が認定する「大人に絵本ひろめ隊」の隊員でもあるHBCアナウンサーの堰八紗也佳が、毎月最終木曜日の放送で絵本の情報をお届けしています。ぜひラジオもお聴きください。