2021.09.02
育む「ママ。私は、もしかしたら、男だと思う」
8年前、「長女」からのカミングアウトを受けた、高橋愛紀(たかはし・あき)さん。
最初は戸惑いましたが、改めて我が子に向き合い、現在はSOGI-Mamii’s(ソジマミーズ)という団体の代表として、性的マイノリティの当事者支援に取り組んでいます。
でも、本当は マイノリティの話ではなく、誰もが持つ「個性」 の話。親子がそれぞれ、何を思って生きてきたか。
本連載では、親と子それぞれの目線から、交代で心の中を語ります。
第1回の今回は、母親の愛紀さんが、息子を”女の子”として育ててきた日々を振り返ります。
(▷第2回目「息子」が書いた記事:ママに喜んでほしくて「ピンク」。本当は「青」がほしかった)
第1子!!2842グラム、初産にしては早く、5時間ちょいで、大きな産声を上げて元気よく生まれてきた(*^^)v
母子ともに健康!!
名前は私の「愛紀」の一文字と、私の母の「美子」の一文字、主人の名前「まなぶ」の読み方をとって、「愛美(まなみ)」と名付けた。誰にでも愛され、美しい人生を歩んでほしいという願いをこめて。
愛くるしい名前に、愛くるしい笑顔…おしゃべりも歩くのも早かった愛美。でもね…愛くるしい名前に逆らうようにして、とっても愛美はおてんばだったんだ。
私は、女の子だから…と、毎日、髪を可愛らしく結んだ。愛美の前髪を束ねる、赤い大きなぼんぼりや、ヒマワリの髪飾りは定番だった。もちろん服装も可愛らしく…。ママや、ママのママが、洋服を手作りしたこともあったんだ。オシャレさんってよく言われていたね。
特別な行事のときは、誰よりも目立つように特別可愛らしい髪型と、お洋服と、愛らしい靴を用意したことを、今でも鮮明に記憶している。でも、愛美がいつも好んで着ていた服は、レースついたブラウスやフリフリのスカートではなく、花柄のワンピースでもなかった。パンダのアップリケがついた黒い上下のジャージと、赤いクマさんの長靴だったんだ。
お出かけの日に、雨でもないのに「長靴を履きたい」と泣きじゃくった愛美。私は急いでいて「せっかくのお出かけの日に、雨でもないのに長靴履きたいなんて、そんなワガママを言うなら、もうこの長靴捨てちゃうからね!」と、愛美を?った。
愛美が毎日、パンダの黒い上下のジャージと、赤いクマさんの長靴を選ぶのは、「自分は女の子じゃないんだ」と私に伝えたかった心からのSOSだったのだと、今のママなら理解できるのだけど…。それだけが、唯一、彼女が「彼」でいられる、ありのままの自分でいられる装いだったのだろう。
何も気づかない私は、七五三祝い、小学校の入学式、卒業式…ことあるごとに女性らしさを、押しつけて育て続けた。
だって、私も幼いとき、嬉しかったから…。母が買ってくれたピンクのワンピースやスカート、女の子が好むフリフリスタイルが大好きだったから…。女の子ってそういうものだと思ってたし、「女の子らしく」と母や祖父母に育てられたのだから…。そう教えられたことが当たり前で正しいと思っていたから…。
愛美の成長を記録した昔のビデオが残っている。今になって気づく…
愛美は笑っていない…。
愛美は、「パパみたいにおちんちんが生えてくるんだ!」って、よく言ってたね。私は、「何言ってるの?おかしな事言って…笑」
そう言ってたのは2~3歳のころ…いつしか愛美は言わなくなった。
小学校4年からサッカーを始めて長い髪を切っても、それからスカートなんて履かないジャージスタイルが定番の毎日になっても、みんな気づいてあげることはできなかった。
みんな、ボーイッシュな女の子と決めつけたんだ。母である私も周りの大人も、そして、社会全体全てが、愛美に女性らしさという曖昧なものを押しつけ続けたんだ。
16歳の夏…カミングアウトのあったあの日まで、ずっと…。
文:高橋愛紀(たかはし・あき)
(SOGI-Mamii'sを立ち上げ、「SOGI」という概念を広めるべく活動。ラジオ番組「高橋愛紀が贈る~SOGI-Mamii’s ハピネス♡Umbrella☂」に出演中)
※SOGIとは、Sexual Orientation・Gender Identityの頭文字で、性的指向/性自認のことを言います。
「LGBT」がレズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダーという‘誰’を指すのに対して、「SOGI」はどんな性別を好きになるのか?自分自身をどういう性だと認識しているのかという‘状態’を指す概念で、LGBTに限らない、全ての人が含まれる考え方です。