2021.09.01

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夫との距離、500キロ以上!コンプレックスを志に変えた「クマ騒動」【こう生きたっていい#1】

女性の幸せ=「結婚」でも、「家庭と仕事の二択」でもない。
いろいろな生き方をする女性を通して、「こう生きたっていいんだ」と思えるヒントを見つけてみませんか。

思い通りにいかない人生と「クマ」

吉沢茉耶(よしざわ・まや)さん・38歳。

6歳年上の夫は後志の島牧村で暮らしていますが、吉沢さんは7歳の娘とともに、道東の知床で暮らしています。
その距離、500キロ以上…車でおよそ8時間かかります。

そこまでして吉沢さんが知床に住む理由とは…。

思い通りにいかない人生の中で「ひとめぼれ」

奈良県出身で、幼少期から自然が大好き。北海道大学水産学部で淡水魚の研究をしたり、大学院でアラスカに留学して野生動物管理を学んだり、長野の軽井沢町のNPOや、道南の江差町の研究室で、クマの対策や調査に取り組んだり…。

軽井沢町のNPOで働く吉沢さん

自然に関わり続けましたが、実は大学も志望校ではなく、就職先も正職員はかなわず、短期での仕事を重ねていました。思い通りにいかない人生で、短期の経歴が並ぶ履歴書はコンプレックスだったといいます。

そんな吉沢さんは、引き寄せられるようにある村にひとめぼれをします。

2012年、友人に「泊まりたいユースホステルがある」と誘われて訪れた、島牧村。海にも山にも恵まれ、田んぼや畑での農作業も、釣りも、登山もでき、
冬にはまだ誰も登っていない氷瀑が現れてアイスクライミングが楽しめる…。

吉沢さんの田んぼ

吉沢さんから見ると、「生活のすぐそばに楽しめることがあって、食べ物もあって、すべてが完結できる場所」でした。

隣の黒松内町の自然学校で働きはじめ、島牧村にも通ううち、2013年の冬、29歳で結婚したのが、吉沢俊輔(しゅんすけ)さん。「島牧ユースホステル」を経営する男性です。

夫の俊輔さんと娘のはるちゃん

俊輔さんとの結婚は「運命」と感じているという吉沢さん。結婚には「興味がなかった」のに、「決まっていたこと」のように導かれ、島牧村に移り住んだといいます。

「だから私は島牧村に来たんだ」コンプレックスを受け入れた瞬間

2018年、島牧村が連日、全国のニュースに出るようになりました。「クマ騒動」です。

島牧村では、この夏、連日住宅地にクマが現れ、庭や小屋を荒らしました。
3年が経った今、札幌でも住宅地にクマが出没する事態になりましたが、吉沢さんはこのときから、「クマ騒動」は島牧村だけの問題ではないと気づいていました。

それは、これまで短期で重ねてきた「幅広いクマ対策の経験」があったからです。コンプレックスだった履歴書を「必要だったことをやってきたんだ」「だから私は島牧村に来たんだ」と受け入れられたといいます。

島牧村だけでなく、「全道のクマ対策を変えたい」と考えた吉沢さん。翌年から、娘のはるちゃんを連れて引っ越し、クマ対策に先進的に取り組んできた「知床財団」で短期職員として学ぶことを決めました。

家庭と「志事」

夫のいる島牧村と、知床との2拠点生活を選んだ吉沢さん。「本当はもっと子育てに時間をかけたい。ユースホステルの仕事も一緒にやりたかった」といいます。
しかし、「クマとヒトとの付き合い方」は、「仕事」や「好きなこと」というより、「志事(しごと)」だと感じていて、我慢することはストレスでした。

大好きな島牧村と、父親と離れて、さみしいはずのはるちゃん。しかし、「かあちゃんはクマ対策の人だからね
はるもがんばるよ、かあちゃん応援してるよ」と声をかけてくれるといいます。

はるちゃんは最近、「クマ対策は人間対策だからね」と話すそう。クマを引き寄せるゴミを率先して拾うなど、吉沢さんの一番身近で、「クマとヒトとの付き合い方」を学んでくれています。

島牧村でゴミ拾いをするはるちゃん

すべて思い通りにはいかないから…

外から見て「変な生き方」でも、はるちゃんの存在は、吉沢さんの人生観も明るくしました。
「子どもが生まれてよかったことのひとつは、どうやったって思い通りにいかない状況にしてくれること。こうありたいけどどうしたってできないときに、最高じゃないかもしれないけれど、とれる選択肢の中で一番心地良いところを選んでいくしかない」

夏休み中、はるちゃんが島牧村に帰り、さみしいといいますが「はるが友達に会えて楽しいなら、いいか」と考えます。家族が一緒にいて、それぞれやりたいことをできるのが「最高」かもしれないけれど、とれる選択肢の中で、それぞれが我慢しすぎず「一番心地良いところ」が、今の生き方。

周囲からは、「離婚してないよね…?」などと、心配されるといいます。それでも、「外から見て変だったとしても、ストレスがないほうがいい」と話す吉沢さん。

知床では、その生き方を応援してくれる人にも恵まれました。学校は、はるちゃんが島牧村にいる間もリモート授業をしてくれ、学童保育やファミリーサポートは、急な残業のときにも助けになってくれます。

「はたから見て予測のつかない動きで、ご迷惑をおかけしているなぁといつも恐縮ですが『でもやる』というのがそのとき自分にできる最善の選択であるなら、支えてくれる方々には感謝しかない」と話す吉沢さん。

自分のことをつい後回しにしてがんばってしまう女性には「心が動いたことを大事にしてほしい」と話していました。

結婚・出産をしても、周囲の助けを得ながら「志事」も大切にする吉沢さんも素敵。でも、夫のそばで生きる、素敵な女性もいます。

次回は、夫と出会ったことで「好きな自分」になれたと話す、70歳の女性の生き方をご紹介します。

文:Sitakke編集部 IKU

Sitakke編集部

Sitakke編集部やパートナークリエイターによる独自記事をお届け。日常生活のお役立ち情報から、ホッと一息つきたいときのコラム記事など、北海道の女性の暮らしにそっと寄り添う情報をお届けできたらと思っています。

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